敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「久しぶりですし……今回は、思いきり華やかにいたしましょう!」
「私がこの国に嫁いで、初めて参加したあの舞踏会以来、になるのね」

 遠い記憶をなぞるように、視線が宙を漂う。

 ユリアが王宮を離れていたこと。
 フレドリックに幽閉されていたこと。
 そして、市場の医局で生きていたこと。

 それらはすべて、公には語られていない。
 姿を見せない王妃について、国民の間で噂が囁かれていたことも、ユリアは知っていた。

 ――姿を見せない二年のあいだに、どんな物語が作られていたのだろう。
 同情か、失望か、それとも好奇の視線か。
 そのすべてを、これから一身に受けることになるのだと思うと、背筋が自然と伸びた。
 
 その王妃が、再び公の場に立つ。

 そう思うと、胸の奥が、ひやりと冷える。
 エルフナルドなら、きっとこう言うのだろう。
 大丈夫だ、と。
 そう言って、何の迷いもなく手を差し出す姿が、はっきりと脳裏に浮かんだ。

 もう一度、エルフナルドの隣に立つと――
 そう決めたはずなのに。
 本当に、これでいいのだろうか。
 ……足りているのだろうか。

 足元が、不意に不確かになる。

 確かに、与えられた部屋は、かつての王妃の部屋だ。
 けれど――
 その居場所に、胸を張って立てているだろうか。

 ユリアは、しばらくのあいだ、曇った表情のまま動けずにいた。
 
 ――逃げたいわけではなかった。
 ただ、自分が選んだ道に、名前を与えたかった。

 それが「王妃」であるのか、
 それとも――

 まだ言葉にできない、もっと個人的な何かなのか。
 その答えを、ユリアは今も胸の奥で、静かに探していた。
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