敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「でも……もし、エルフナルド様が悪く言われてしまったら……」
 
 言葉が震えそうになるのを、ユリアは必死に堪えた。
 
「それだけは……私、耐えられません」
「そんなこと、言わせるわけがない」

 エルフナルドは即座に言い切った。
 迷いも、逡巡もない声音だった。

「それほど、私はこの国のために尽くしてきた。誰かに好き勝手言わせる余地など、最初からない」

 その言葉には、積み重ねてきた年月と、王としての矜持が滲んでいた。

 ――自信に満ちた言葉だった。

 その表情を見ているうちに、ユリアの胸の奥に溜まっていた不安が、すっとほどけていくのを感じる。

「……大丈夫だ」

 重ねて告げられたその一言が、背中を支えてくれる。
 ユリアは小さく息を吸い、まっすぐにエルフナルドを見つめた。

「……あなたの妻として、隣に立たせてください」

 肩書きではなく、役目でもなく。
 ただ――あなたの妻として。

「もちろんだ」

 エルフナルドは、微笑みを浮かべてそう答えた。
 
 それから三日後。
 舞踏会の夜、ユリアは約二年ぶりに、公の場へと姿を現すことになった。
 エルフナルドと並び、扉の前に立ったユリアは、思わず肩に力が入ってしまう。
 胸の鼓動が、はっきりと聞こえるほどだった。
 ドレスの重みと、床に伝わる足裏の感覚に、ユリアはそっと息を整えた。

「はは。やはり緊張しているな」

 そう言って、エルフナルドはユリアの表情を覗き込む。

「その顔を見るのは久しぶりだ。前に晩餐会で踊る前も、まったく同じ顔をしていた」

 懐かしむような笑みに、ユリアは思わずむっとした。

「そ、そんな……笑わないでくださいませ。エルフナルド様は、こういう場に慣れていらっしゃるかもしれませんが――」
「ユリア」

 言葉を続けようとしたところで、名前を呼ばれ、ユリアははっと口を閉じた。
 
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