敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 「い、いえ……なんでも……」

 視線を逸らし、逃げるように身を引こうとした、その瞬間。
 手首を、そっと掴まれる。

「……逃げるな」

 エルフナルドはそっとユリアを引き寄せた。 
 そして、もう一度口付ける。
 
 今度は――先ほどより、少しだけ長く。
 
「……っ」
 
 ユリアの体がわずかに強張る。
 けれど、拒まない。
 エルフナルドはそっと額を寄せた。
 そして、もう一度。
 ほんの少しだけ間を置いてから――
 優しく。
 
 エルフナルドは、逃がさないように、そっと抱き締めた。

 
 その夜、ユリアが眠ったあと。 
 エルフナルドは、ユリアが読んでいた本をそっと手に取った。
 
 しおりの挟まれたページ。
 そこには、何度も口付けを交わす恋人たちの姿。
 
「……なるほど」
 
 小さく笑みをこぼす。 
 眠るユリアへ視線を向ける。
 満ち足りたような、その寝顔。
  
 エルフナルドはほんのわずかに苦笑して、静かに息を吐いた。 

 そして翌日も、その次の夜も。
 ユリアは少しずつ違う“真似”をしてくる。
 その仕草は――昨夜読んでいた小説の一節を、そのままなぞるようだった。
 何気ない瞬間に近づいたり。
 口付けのあと、わずかに間を空けて待ってみたり。
 どれもこれも、ぎこちなくて。
 けれど――真剣で。
 その想いだけは隠しきれていない。
 
 そのたびに、エルフナルドは気づかぬふりをしたまま、そっとユリアを引き寄せた。
 そして少しだけ長く口付けた。
 
「……っ」
 
 ユリアの肩が小さく震える。
 けれど逃げない。
 むしろ――ほんのわずかに、寄ってくる。
 その反応に、エルフナルドの口元が、わずかに緩んだ。
 
 ――本当に、分かりやすいお姫様だ。

 欲しいものを隠しきれず、けれど言葉にはできなくて。
 そんな不器用な仕草さえ、愛おしい。

 エルフナルドは微かに笑みを浮かべると、甘やかすように、ユリアの背をゆっくり撫で続けた。
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