敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

16 二人の関係

 ユリアは、その日の庭園での作業を終え、自室の椅子に腰掛け、本を開いていた。
 
 コンコン、と控えめなノックの音がする。
 
 返事をすると、アリシアが静かに扉を開けて入ってきた。
 だが、いつもならすぐに口を開くはずのアリシアが、今日はなかなか言葉を発しない。
 ユリアは本を閉じ、不安そうに首を傾げた。

「どうしたの、アリシア?」

 促されて、アリシアは一瞬視線を伏せ、それからおそるおそる口を開いた。

「本日は……陛下が、ユリア様とご一緒にご夕食を取られるとのことです」
「えっ……?」

 思わず声が裏返り、ユリアは勢いよく椅子から立ち上がった。

「ほ、本当なの? 今まで一度もご一緒したことがないのよ? 急にどうして……何かあったの?」

 アルジール国に嫁いできてから、すでに二ヶ月。
 あの婚姻の儀以来、ユリアは食事どころか、正式に言葉を交わす機会すらなかった。

「私も……陛下の側近であるカリル様から、そうお伝えするように言われただけで……詳しいことは何も存じません」

 申し訳なさそうに言うアリシアに、ユリアは小さく息を吐いた。

「……そう。わかったわ」

 夕食までの時間、ユリアは再び本を開いた。
 けれど、文字はまったく頭に入ってこない。
 胸の奥がざわつき、ページを追うたびに、エルフナルドの姿が脳裏をよぎった。
 やがて夕食の時間となり、ユリアは指定された部屋へ向かった。
 扉の前で一度深呼吸をし、そっと中を覗く。

――よかった。……まだ、いらっしゃらないわ。

 室内には誰の姿もなく、ユリアは思わず胸を撫で下ろした。
「早く席に着いてくれないか」

 背後から突然かけられた低い声に、ユリアはびくりと肩を震わせた。
 勢いよく振り返ると、すぐ後ろにエルフナルドが立っていた。

「あっ……! えっと……も、申し訳ございません」

 慌てて頭を下げ、ほとんど逃げるように席に着く。
 ほどなくエルフナルドも向かいの席に腰を下ろした。

< 37 / 122 >

この作品をシェア

pagetop