敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「あの……お久しぶりでございます、陛下。お障りなくお過ごしでしたでしょうか」
「ああ」

 視線すら寄越さず、短く返される返事。
 ユリアは一瞬言葉に詰まりながらも、ぎこちなく続けた。

「そうでしたか。私の方も……変わりなく過ごさせていただいております。ありがとうございます」

 頭を下げても、エルフナルドが応じることはなかった。
 それ以降、食事の席に会話はなく、静かな室内に、食器の触れ合う音だけが、やけに大きく響いた。
 食後のお茶が運ばれてきた頃、ようやくエルフナルドが口を開いた。

「……今夜は、寝室で眠る。お前も来い」

 それだけ告げると、彼は席を立ち、振り返ることなく部屋を出ていった。
 残されたユリアは、言葉の意味をすぐには理解できず、呆然とその背を見つめていた。
 やがて、はっとして後ろに控えていたアリシアへ視線を向ける。

「……ということですので」

 アリシアは察したように静かに言い、
「ご準備をいたしましょう、ユリア様」
 と、穏やかに続けた。
 
 準備を終えたユリアは、結婚式の夜以来、初めて自室の隣にある寝室へと足を踏み入れた。

 ――前と同じように、椅子でお待ちすればよいのかしら……?
 それとも……今日は、違うの?

 そう考え、部屋の奥に置かれた椅子に腰を下ろす。
 背筋を伸ばしたまま、ユリアは静かにエルフナルドの到着を待った。
 程なくして、エルフナルドの部屋と寝室を繋ぐ扉が音もなく開いた。
 入ってきた気配に、ユリアは慌てて立ち上がった。
 エルフナルドは一瞬だけユリアに視線を向け、そのまま歩み寄ると、彼女の正面に置かれた長椅子に腰を下ろした。
 まさか真正面に座られるとは思っていなかったユリアは、わずかに目を見開いたが、すぐに気を取り直し、姿勢を正して座り直した。

「本日もご公務、お疲れ様でございました。何かお飲みになりますか? お酒もご用意がございますが……」
「……では、一杯ワインをもらおう」

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