敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ユリアは立ち上がり、部屋の隅に置かれた酒瓶の載ったワゴンへ向かった。
 ワインボトルを手に取ったものの、栓がコルクであることに気づき、首を傾げる。

 ――見たことはあるけれど……自分で開けるのは、初めてだわ。

 引き出しを開けて道具を探すが、それらしいものは見当たらない。

「……お前は、ワインボトルの開け方も知らないのか?」

 じっと様子を見ていたエルフナルドが、痺れを切らしたように立ち上がり、近づいてきた。

「申し訳ございません……」

 しゅんと肩を落とすユリアの手からボトルを受け取ると、エルフナルドは慣れた手つきでオープナーを使い、あっという間にコルクを抜いた。

「まあ……! コルクは、そのように外すのですね」

 さきほどまでの落ち込んだ様子から一転し、ユリアは興味津々に目を輝かせてその一連の動作を見つめた。

「お前は酒を飲んだことがないのか? 食事の席や舞踏会でも、目にすることはあるだろう」

 不思議そうに尋ねられ、ユリアは少し困ったように視線を伏せる。

「……実際に飲んだことはございません。そういった場に出る機会も、ほとんどなくて……」
「……まあ、よい。お前も飲んでみるか?」
「いえ! 私は大丈夫です」

 そう言って、ユリアは自分のグラスに水を注いだ。
 エルフナルドは長椅子に戻り、ワインを一口含んでから、淡々と口を開く。

「……一週間後に舞踏会がある。お前にも出席してもらう」
「……舞踏会、ですか。…………わかりました」

 返事をしながらも、ユリアはじっとエルフナルドの顔を見つめた。
 何か言いたげなその視線に気づき、エルフナルドは小さくため息をつき、足を組む。

「何かあるなら、言え」
「あ、あの……舞踏会では……私は、どのように振る舞えばよろしいのでしょうか?」

 その問いに、今度ははっきりと呆れたようなため息が落ちた。

「……本当に、お前は王女だったのか?」

 半ば独り言のように呟き、残っていたワインを一息に飲み干す。

「……申し訳ありません」
「明日から指導者をつける。当日までに作法とダンスを叩き込め。私の顔に泥を塗るような真似はするな」

 そう言い残し、エルフナルドは立ち上がると、寝室中央のベッドに横になった。

「……精一杯、努めます」

 ユリアの言葉に返事はなく、部屋には静けさが戻った。
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