敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「特に……どこも痛くはありませんが……」

 それでも無言でいるのは失礼だと思い、そう答えた。

「そうか。それならいい」

 それきりエルフナルドは口を閉ざし、再び沈黙が落ちた。
 結局、ユリアにはその問いの意味が分からないままだった。
 その後、執務室に戻ったエルフナルドを、カリルがどこか含みのある表情で迎えた。

「なんだ、カリル。言いたいことがあるなら言え」
「いえ……お食事をお勧めしたのは私ですが、まさか昨日、寝室までお誘いするとは思っておりませんでしたので。少々驚きました」
「舞踏会の話をするためだ。それ以上の意味はない」
「それなら、食事の席でも十分だったのでは?」

 エルフナルドは黙り込み、カリルはなおも視線を外さない。

「……まだ何かあるのか」
「世継ぎはいらないとおっしゃっていた割に、さすが陛下。手がお早いな、と」
「……何の話だ?」

 怪訝な表情を浮かべるエルフナルドに、カリルは肩をすくめた。

「朝食の際、王妃様のお身体を気遣っていらしたでしょう?」
「……あれは、そういう意味ではない」
「え? 違うんですか?」
「……」

 エルフナルドはしばし沈黙し、やがて小さく息を吐いた。

 ――なるほど。あの一言だけで、カリルはもちろん、周囲の侍女たちにも余計な誤解を与えたわけか。
 そう考えると、カリルが食事や舞踏会を勧めた意図も、あながち間違いではないのかもしれない。

 ひとり納得したエルフナルドは、カリルが返事を待っているのをよそに、書類を手に取り、これ以上この話題を続けるつもりはないという態度を示した。

 その頃ユリアも自室に戻ると、エルフナルドとの会話を気にしていた様子のアリシアが、そっと声をかけてきた。

「ユリア様……お身体、もしお辛ければ遠慮なく仰ってくださいね。本日から舞踏会まで、いろいろなお稽古が詰まっておりますので……」

 アリシアは心配そうにしながらも、どこか嬉しさを含んだような、複雑な表情をしていた。

「陛下もそうだったけれど……どうして皆、私の身体のことを心配してくれるの? 私は本当に元気よ?」
「なるほど……陛下はやはり、そういうところは慣れていらっしゃるのですね。ある意味、安心いたしました」

 アリシアはそう呟き、ひとりで納得したように小さく頷く。
 だがユリアには、やはり話の意味が分からなかった。 
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