敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 午後からはダンスの稽古のため、ユリアは王宮のホールへ向かった。

「ではユリア様。まずは、どの程度踊れるのか拝見してもよろしいでしょうか。そこからレッスン内容を決めますので」

 そう声をかけてきたのは、ダンス講師のライラだった。
 アリシアから「とても厳しく、スパルタだ」と聞いていたユリアは、思わず背筋を伸ばす。

「ライラ先生……申し訳ありません。実は、私、ダンスはまったく踊れません。ですので、基礎から教えていただけますでしょうか」

 戦場に出ることはあっても、舞踏会に参加するような機会など一度もなかった。
 見栄を張る意味もないと判断し、正直に伝える。
 ライラは一瞬だけ目を丸くしたが、余計なことは何も言わず、「わかりました」とだけ答え、すぐに基本のステップから指導を始めた。
 
 ダンス、歩き方、立ち居振る舞い、食事の作法――。
 どの講師も容赦なく、しかし確実にユリアを鍛え上げていった。
 連日の厳しい指導のおかげで、舞踏会前日にはすべて「合格」の評価を受けた。
 舞踏会前夜。
 ユリアは自室のバルコニーで、ひとり静かにステップを踏んでいた。

 ――合格はもらっている。
 
 それでも、前日になると不安が込み上げてくる。

「……完璧にしないと。教えてくださった先生方に申し訳ないもの。それに……」

 小さく息を整えながら、ユリアは呟く。

「陛下に恥をかかせるようなことをしてしまったら……大変だわ」

 その姿を、自室のバルコニーの長椅子から、エルフナルドが静かに見つめていた。
 ユリアは見られていることなど知る由もなく、ひたすらステップを繰り返していた。
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