敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「そうだ」

 その様子など気にも留めていないかのように、フレドリックは自然な動作でユリアの手を取った。

「兄上は、貴方にお優しいですか? あの人、意外と冷たいところがあるでしょう?」
「……」

 突然の接触と問いかけに、ユリアは言葉を失った。

「もし、兄上には言いにくいことがあれば」

 フレドリックは、指先にわずかに力を込める。

「私が、いつでも相談に乗りますよ」

 どこか含んだような物言いで微笑んだ。
 
「陛下には……よくしていただいておりますので。ご心配には及びません」

 絞り出すようにそう答えると、フレドリックは一瞬だけ、何かを測るような視線を向けた。

「……それなら、いいのですが」

 すぐにまた、柔らかな笑みに戻る。

「まあ、覚えておいてください。私は、いつでも貴方の味方ですから」

 もう一度、ユリアの手を包み込むように握り直し、にっこりと笑った。
 その言葉の意味が掴めず、ユリアはフレドリックの瞳を見つめ返していた。

「フレドリック様」

 そのとき、側近らしき人物がバルコニーに姿を現し、声をかけた。
 二人は同時に視線を外す。

「呼ばれてしまいましたね」

 フレドリックは名残惜しそうに手を離すと、一礼した。

「では、これで失礼します。兄上に、よろしくお伝えください。――ユリア様」

 意味ありげな視線を残し、フレドリックはバルコニーを後にした。

 ――優しそうな方だったけれど……
 どこか、胸の奥がざわつく言い方だったわ。

 夜風に当たりながら、その違和感を言葉にできないまま、ユリアは月を見上げていた。
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