敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ユリアは、エルフナルドの笑う顔を初めて見た気がした。
 普段の厳しい表情とはまるで違う、穏やかで優しい笑みに、思わず見惚れてしまう。
 それにつられるように、肩の力がすっと抜けた。
 気づけば音楽に身を委ね、エルフナルドとのダンスが始まっていた。
 ユリアがそっと顔を上げて彼を見つめると、先ほどの笑顔は消えていたが、どこか表情が和らいでいるように感じられた。
 視線が合うたび、エルフナルドは何も言わないまま、しかし確かにユリアの動きに合わせて導いてくれる。
 その感覚が心地よく、ユリアは次第に夢中になって踊っていた。

「陛下、もう一曲お願いします!」

 曲が終わるや否や、ユリアは思わずそう口にしていた。
 エルフナルドは一瞬だけユリアを見下ろし、何か言いかけたようだったが、結局何も言わずに手を差し出した。
 
 そのまま、次の曲が始まる。

 ダンスに没頭していたユリアの頭からは、先ほどミラベルに言われた言葉など、すっかり消えていた。
 周囲の令嬢たちは、寄り添うように踊る二人の姿を、羨望の眼差しで見つめている。
 一方で、ミラベルを含む数人は、嫉妬に歪んだ表情を隠そうともしていなかった。
 だが、そんな視線が向けられていることに、今のユリアが気づくはずもなかった。
 そしてエルフナルドもまた、その視線を意識しながらも、以前ほど気に留めなくなっている自分に、まだ気づいていなかった。
 
 舞踏会が終わり、エルフナルドにエスコートされながら廊下を進んでいると、背後から弾んだ声がかけられた。

「兄上、ユリア様!!」

 振り返ると、先ほどバルコニーで会ったフレドリックが、軽やかな足取りで駆け寄ってくるところだった。
 その姿を認めた瞬間、エルフナルドの表情から、先ほどまでの柔らかさがすっと消えた。

「おふたりのダンス、実に素晴らしかったです。端から拝見していましたが、会場中が釘付けでしたよ。ユリア様も、あんなにお上手だとは。――できれば、私とも一曲踊っていただきたかったなあ」

 終始にこやかなフレドリックに対し、エルフナルドは眉間に深い皺を刻んだまま、視線を逸らそうともしない。

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