敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「そんな怖い顔をなさらないでください、兄上。ただ羨ましいと言っているだけですよ」

 笑みを崩さないフレドリックだったが、その目の奥に、どこか測るような色が浮かんだ。
 ユリアは言い知れぬ不安を覚えた。

「……」

 エルフナルドが沈黙を貫くと、フレドリックは自然とユリアへ視線を移す。

「次は、ぜひ私とも踊ってくださいね、ユリア様。では、これで」

 軽く一礼すると、何事もなかったかのように踵を返して去っていった。
 しばしの沈黙のあと、エルフナルドは低く呟いた。
 
「……親しげだったな。どこかで会ったのか?」
「あ……先ほど、会場のバルコニーでご挨拶を。とてもお優しそうで、人懐っこいお方ですね」

 そう答えた瞬間、エルフナルドの足がわずかに止まった。

「……あいつと、何を話した」

 抑えた声色だったが、そこに混じる苛立ちは隠しきれていない。

「特に何も……。ご挨拶をしただけです」

 その答えに、エルフナルドは短く息を吐いた。

「あいつには近付くな。会うことがあっても、信用するな」
「……わかりました」

 本当は理由を尋ねたかった。
 だが、その横顔を見て、ユリアはそれ以上何も言えなくなった。

「エスコートも、この辺りでいいだろう」

 唐突に、エルフナルドは腕を解いた。

「私は先に失礼する。お前も、もう休め」

 一瞬、ユリアの表情が曇ったが、それを悟られまいと小さく頭を下げる。

「……おやすみなさい」

 エルフナルドは振り返ることもなく、自室とは別の方向へ歩き去っていった。
 ユリアはその背中をしばらく見つめてから、ひとり部屋へ戻った。

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