敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
ユリアは、これまで見てきた各国の薬草のことを思い返した。
薬草は国によって採れるものが異なり、それに伴って調合の方法や効能も微妙に変わってくる。
中には自国では手に入らず、他国から仕入れなければならない薬草もあった。
だが、国同士の関係が悪ければ薬草の取引は難しくなり、また自国以外の薬草を忌避する薬師も少なくなかった。
リヒターが育てていた南の国の薬草も、そうした事情からアルジール国の薬師たちに快く思われていなかったのだろう。
それでも、薬草がきちんと育ち、効能が確かだと広く知られれば、反対の声は次第に小さくなるはずだ。
だからこそ、調合には細心の注意を払わなければならない――ユリアはそう自分に言い聞かせていた。
考え込んでいるユリアに、クリックが静かに問いかけた。
「ユリア様は、以前ご自身の国で薬草を育てていたと仰っていましたが……お国では、他国の薬草も受け入れられていたのですか?」
「いえ……実は、勝手に育てていたので。受け入れられていたかどうかは……」
ユリアは苦笑して答えた。
「南の国の薬草は、向こうでも簡単には手に入らない貴重なものです。私には兄がおりまして、その兄の伝手で、ようやく入手することができました」
ユリアは静かに言葉を続けた。
「兄は騎士をしていて、戦に出るたびに、傷に効くとされる薬草を持ち帰ってくれたんです」
ユリアは、少しだけ視線を落としてから、静かに続けた。
「それを国で育て、傷薬として調合していました」
「なるほど……だから傷薬ばかりだったのですね。お兄様のためでもあったとは。お優しい妹君ですね」
感心したように言うクリックに、ユリアは小さく首を横に振った。
「いえ……私にできることは、それくらいしかありませんでした。……傷ついた後にしか、対処できない。戦争さえなければ、傷を癒す必要なんてないのに……」
「それでも、傷ついた人のために行動できることは、簡単なことではありません」
クリックは穏やかな声で言い、続けた。
「この国も、戦の多い国です。私たちには、私たちにできることをするしかありません。そのために、今もユリア様は薬草を育て、薬を作ろうとなさっているのでしょう?」
「……そうですね。ありがとうございます、クリック様」
その言葉に、ユリアの胸の奥に溜まっていたものが、少しだけ軽くなった気がした。
この国で自分に何ができるのか――迷いながらも、今できることを一つずつ積み重ねていこう。
ユリアは、改めてそう心に誓った。