敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「……初めて聞くお話です。私の国では、そのような噂は一度も」
「……そうですか」
少し間を置いて、フレドリックは続けた。
「私達にはリヒターという兄がいまして、その兄上がその噂を耳にし、少し調べていたことがあったのです。ユリア様は北に近いお国のご出身でしょう? 何かご存知かと思ったのですが……残念ですね」
「……お力になれず、申し訳ありません」
顔を上げると、フレドリックは先ほどと変わらない笑顔を浮かべていた。
「いえ、お気になさらず。それでは、私はこれで」
深く一礼し、フレドリックは静かに書庫を後にした。
――北の国の魔物……。
クリック様は、リヒター様がそんな噂を調べていたなんて仰っていなかった。
それに……なぜフレドリック様が、そんな噂を知っているの?
しかも、傷を癒すって……まさか……。
ユリアの首筋を、冷たい汗が伝った。
また別の日。
ユリアは再び書庫を訪れていた。
先日フレドリックから聞かされた話が、どうしても頭から離れなかったのだ。
高い書棚の間を歩きながら、無意識に背筋が伸びる。
静まり返った書庫には、自分の足音と、布擦れの音だけがやけに大きく響いていた。
クリックに尋ねても、はっきりした答えは得られなかった。
――ならば、自分で確かめるしかない。
棚を一段ずつ見上げ、背表紙に刻まれた文字を追っていく。
「……そうですか」
少し間を置いて、フレドリックは続けた。
「私達にはリヒターという兄がいまして、その兄上がその噂を耳にし、少し調べていたことがあったのです。ユリア様は北に近いお国のご出身でしょう? 何かご存知かと思ったのですが……残念ですね」
「……お力になれず、申し訳ありません」
顔を上げると、フレドリックは先ほどと変わらない笑顔を浮かべていた。
「いえ、お気になさらず。それでは、私はこれで」
深く一礼し、フレドリックは静かに書庫を後にした。
――北の国の魔物……。
クリック様は、リヒター様がそんな噂を調べていたなんて仰っていなかった。
それに……なぜフレドリック様が、そんな噂を知っているの?
しかも、傷を癒すって……まさか……。
ユリアの首筋を、冷たい汗が伝った。
また別の日。
ユリアは再び書庫を訪れていた。
先日フレドリックから聞かされた話が、どうしても頭から離れなかったのだ。
高い書棚の間を歩きながら、無意識に背筋が伸びる。
静まり返った書庫には、自分の足音と、布擦れの音だけがやけに大きく響いていた。
クリックに尋ねても、はっきりした答えは得られなかった。
――ならば、自分で確かめるしかない。
棚を一段ずつ見上げ、背表紙に刻まれた文字を追っていく。