敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 植物名、薬効、地方誌――
 どれも見覚えのある分類ばかりで、目当てのものはなかなか見つからない。

 ――やっぱり、考えすぎなのかしら。

 半ば諦めかけ、視線を落としたときだった。

 棚の奥、ほかの本に隠れるようにして、不自然な「隙間」があることに気づく。

 そっと手を伸ばし、指先で確かめる。

「……?」

 引き抜いた本には、題名がなかった。
 文字も、記号も、何一つ刻まれていない。
 
 古びた革表紙。
 時間の経過を感じさせる、独特の匂い。
 
 胸が、どくんと脈打つ。
 
 ためらいながらも、ユリアは表紙をめくった、その瞬間。
 そこに描かれていた紋章を見て、ユリアの心臓が跳ね上がった。

「……このマーク……この紋章は……」

 喉が、ひくりと鳴る。

「……ティーン国のものだわ……」
 
 一気に鼓動が早まり、額から冷や汗が滲み出る。

 ――どうして、ティーン国の紋章が刻まれた本が、この国に?
 ティーン国の存在は、ごく一部の者しか知らないはず。
 ユーハイム国に囚われてからは、なおさら他国の者が知るはずもないのに……。

 先日のフレドリックの言葉。
 自分がこの国に嫁がされた理由。
 そして、このティーン国の本。

 もし、それらがすべて繋がっているのだとしたら――。

 ユリアは頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。

「……そんなはず、ないわ……。絶対に、嘘よ……」

 震える声で、ユリアは呟いた。

「……そうでしょう? お兄様……」
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