敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 しばらくして、薬草を一通り見て回った頃、クリックがユリアに声をかけた。

「ユリア様、少しだけこちらでお待ちいただけますか? 市場へ行くならと、薬事所から一つお使いを頼まれておりまして。三十分ほどで戻れると思います」
「お忙しいのに、ごめんなさい。こちらのことは気になさらないでください」
「ありがとうございます。では、少し行ってまいります」

 そう言って、クリックは人混みの向こうへと歩いて行った。

「ユリア様、そういえば……お目当ての薬草は見つけられましたか?」
「そうだったわ。今日はそれが目的だったのよね。あっちのお店に、もう少し探しに行ってみましょう」

 そう言って、二人は薬草売り場のさらに奥へと進んだ。

「それにしても……陛下が市場へ出ることを許可なさるなんて、正直思っていませんでした」

 アリシアはそう言いながら、横に並ぶユリアを見た。

「え? そうかしら。陛下は、私の行動はあまり気にされていないと思うわ。庭園の手入れも許可してくださったし……陛下って、意外とお優しい気がするの」

 ユリアは目当ての薬草を探しながら、穏やかにそう答えた。

「ねえ、ここって――」

 その瞬間、背後のざわめきが、不自然に途切れ、空気が張り詰めた気がした。
 
「ユリア様!! 危ない――――――!」

 アリシアの叫び声に、ユリアが咄嗟に振り返った。
 視界に飛び込んできたのは、フードを深く被った怪しげな男が、こちらへ向かって走り込んでくる姿だった。
 考えるよりも早く、アリシアがユリアを庇うように前へと身を投げ出した。

 ザシュッ!
 
 一瞬、何が起こったのか分からなかった。
 次の瞬間、アリシアが呻くように体を強張らせたのを見て、ようやく理解する。

 ――斬られた。

「アリシア!!」

 腕を斬られ、崩れ落ちそうになるアリシアを、ユリアは咄嗟に抱きとめた。

「アリシア! アリシア!! 大丈夫!?」

 必死に呼びかけるが、アリシアは痛みに耐えているのか、声を出すこともできない様子だった。
 その隙に、男は人混みの中へと逃げ出し、護衛騎士が慌てて後を追った。

 ユリアは震える手で、アリシアの斬られた腕を確認した。
 幸い、致命的な深さではなさそうだったが、傷の位置が悪く、出血はかなり多い。

「……っ」

 ユリアは迷わず自分の服の裾を裂き、素早く腕に巻き付けて止血を施した。
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