敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「申し訳ありません……」

 しゅんと肩を落とし、ユリアは小さく呟く。

「怒っているわけじゃない。……お前は、それでいい」

 その言葉に、胸の奥がわずかに温かくなる。
 けれど、素直に喜んでいいのか分からず、ユリアは曖昧に視線を落とした。

「侍女も、明日もう一度、王宮の医官に診せるよう手配してある。安心しろ」
「本当ですか!? ありがとうございます……痕が残らないか心配で……」
「王宮の医官は腕がいい。問題ないだろう」

 ユリアは、ほっと胸をなで下ろした。

「今日はもう休め」

 そう言って立ち上がったエルフナルドは、一瞬だけ動きを止め、躊躇うように伸ばした手で、通りすがりにユリアの頭をくしゃりと撫でた。
 呆然としたまま見送った後、ユリアは言われた通り、ベッドに横になった。

 ――今日の陛下は……とても優しかった。
 口調はいつも通りだけど、ちゃんと心配してくださったのよね。

 そう思い返しているうちに、ユリアはいつの間にか眠りについていた。
 その後、何度か様子を見にエルフナルドが訪れていたことなど、ユリアが知るはずもなかった。


 翌日の晩、ユリアはエルフナルドと共に夕食を取っていた。

「昨日は……目当ての物は、結局手に入ったのか?」

 唐突な問いかけに、ユリアは一瞬きょとんとする。

「昨日、欲しい物があるから市場へ行ったのだろう?」
「あ……はい。お目当ての物は見つかりませんでしたが、他の物はいくつか。許可をいただき、ありがとうございました」

 まさかそこまで気に掛けられているとは思わず、ユリアは少し驚きながら答えた。

「……そうか。今は公務で手が離せないが、それが終われば少し時間は取れる。その時は、私が一緒に市場へ行こう」

 視線を合わせないまま、何気ない調子で言った。

「陛下に、そのようなお手を煩わせるわけには……」
「私がいいと言っている。気にするな」

 断り切れず、ユリアは小さく息を吸った。

「……わかりました。ありがとうございます」
 
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