敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「……実は、そのルトアから、急に晩餐会の招待状が届いた」

 エルフナルドは少し険しい表情で、ユリアに封書を差し出した。

「三日後だ。いつもは一か月前には知らせが来るのだがな」
「三日後……!? それは、随分急でございますね。ルトア国までは、どのくらいかかるのですか?」
「馬車で行けば、四日はかかる」
「そ、それでは……もう出発しても間に合いません!」

 思わず立ち上がるユリアに、エルフナルドは小さく笑った。

「お前がそんなに慌ててどうする」
「……す、すみません」

 言われて我に返り、ユリアはそっと椅子に腰を下ろす。

「今回は、お前も招待されている。私とお前が結婚したことが、ルトアにも伝わったらしい」
「わ、私も……?」

 驚きつつも、ユリアはすぐに頷いた。

「もちろん、お供いたします。ですが……移動は?」
「馬で行く。最短の山道を使えば、一日もかからない。急な招待だから、衣装や装飾品は向こうで用意すると書いてあった」
「そういうことでしたか……安心いたしました」

 胸をなで下ろすユリアに、エルフナルドは少しだけ表情を緩めた。

「慣れていない者には、少し厳しい道のりになるが――」
「とんでもありません。とても楽しみです!」

 迷いのない笑顔に、エルフナルドは拍子抜けしたように苦笑した。
 その夜、いつものように長椅子で眠ろうとするユリアに、
「明日は長旅になる。今日はベッドで休め」と促したが、ユリアは首を横に振った。

 結局――
 夜中、いつものように長椅子から床へ落ちていたユリアを、エルフナルドが黙って抱き上げ、ベッドへ運ぶ。

「……本当に、毎晩のことだな」

 ――こいつは、自分が運ばれていることに、本当に気付いていないのか。
 
 目を覚ます気配もなく、すやすやと眠るユリアを見下ろし、エルフナルドは小さく呟いた。

 次の日、簡単に身支度を整えたユリアは、王宮の門の前へと急いだ。
 すでにエルフナルドは到着しており、傍らにはカリルと、護衛騎士と思しき人物が一人立っていた。

「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

 ユリアは小走りで駆け寄り、頭を下げて謝罪した。

「構わない。紹介しよう。こちらが護衛騎士のサリトスだ」

 エルフナルドは隣に立つ男を横目で見ながら告げた。

「騎士団所属のサリトスだ。普段は国境警備に就いている。今回は陛下と王妃様の護衛を任されている。よろしく頼む」
「ユリアです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 挨拶を終えたユリアは、ふと三人の背後に視線を向けた。
 そこには三頭の馬が、静かに待機していた。

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