敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「あちらの馬で向かうのですね!」

 久しぶりの馬を目にし、ユリアは思わず声を弾ませると、そのまま駆け寄った。
 ユーハイム国にいた頃は、戦争に赴くたび馬に乗っていたが、城に幽閉されてからは、乗馬の機会など一切なかった。
 そのため、懐かしさと嬉しさが一気に込み上げてきたのだった。

「私はこちらの馬でよろしいのでしょうか?」

 そう問いかけながらも、返事を待つ前に――
 ユリアは一瞬だけ馬の背を確かめ、そのまま何の迷いもなく、軽やかに跨ってみせた。
 馬上から振り返ると、エルフナルド、カリル、サリトスの三人が、揃って目を丸くしてこちらを見ていた。

「あれ……? すみません、こちらの馬ではなかったでしょうか?」

 三人の反応に気付き、ユリアは慌てて降りようとしたが、その瞬間――

「はははっ!!」

 サリトスが大きな声で笑い出した。

「姫はずいぶん大胆だな! 一人で馬に乗るとは。そんな女、初めて見たぞ!」

 ガハハと腹を抱えて笑うサリトスをよそに、エルフナルドとカリルはまだ驚いた表情のままだった。
 その様子を見て、ユリアはようやく「やってしまった」と理解する。

「あの……ユーハイムにいた頃、乗馬が趣味でして……」

 消え入りそうな声で弁解してみたものの、三人がどこまで信じてくれたかは分からなかった。

「お前は私と二人乗りだ。その馬は、カリルとサリトスが一頭ずつ使う」

 エルフナルドはそう言って、馬から降りるよう促した。

「姫が一人で乗りたいなら、俺がカリルと乗ってもいいぞ」
「い、いえ! 私が陛下とご一緒いたします……!」

 サリトスのからかうような提案に、ユリアは勢いよく首を横に振り、馬から降りた。
 エルフナルドが馬に跨ると、上からユリアへ手を差し出す。

「……手は、いらないかもしれないが」

 わずかに笑みを含ませた声だった。

「いえ……ありがとうございます」

 ユリアは遠慮がちにその手を取り、馬に乗った。
 先ほどまでの大胆な行動を思い出し、今さらながら恥ずかしさが込み上げ、頬が熱くなる。

「では、参ろう」

 遠くで雷が光り、山道の先に不穏な天気が広がっていた。
 ユリアはそれを、黙って見つめていた。
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