敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「明日進めれば、あと四、五時間でルトアに着く」
「……そうですか。では、天気が回復するのを祈るしかありませんね」

 そこへ、びしょ濡れになったカリルとサリトスが洞窟へ戻ってきた。
 カリルは服の水を払い、サリトスは頭から滴る水を手で拭う。
 
「やはり川は増水しています。馬で渡るのは危険ですし、地面も滑りやすい。雨も止みそうにありません。今日はここで休み、明日の様子を見ましょう」
「だろうな。この雨では無理をするべきではない」

 顎に手を当て、エルフナルドは考え込んだ。

「明日も無理なら、ルートを変えるのはどうだ?少し遠回りになるが、山を越えれば進めるはずだ」

 サリトスの提案に、エルフナルドは頷いた。

「その時は、そうするしかないな」

 三人が話し合っていると、ユリアが控えめに声をかけた。

「あの……焚き火を起こしました。そのままでは風邪をひいてしまいますし、お洋服を乾かしませんか?」

 三人が振り返った。
 洞窟の奥で、赤い炎が静かに揺れていた。
 赤い炎が岩肌をほんのり照らし、湿った衣服に残っていた冷えが、火の熱でゆっくりとほどけていく。
 
「……馬に乗れるだけじゃなく、火まで起こせるのか。……お前はどこまで出来るんだ?」

 エルフナルドが半ば呆然としながら尋ねる。

「あ、あの……奥に枯れ葉や枝がありましたので……ちょうど良いかと……」

 少し気まずそうに答えつつ、ユリアは火のそばへ来るよう三人を促した。

「姫はすごいなぁ。ますます気に入った! エルフナルドなんかやめて、俺のところに嫁に来ないか?」

 エルフナルドは一瞬だけサリトスを見た後、すぐに視線を逸らして無言で火の前に腰を下ろした。
 サリトスは大口を開けて笑いながら、上着を脱ぐ。
 カリルも苦笑しつつ服を脱いで水を絞り、火の近くへ置いた。
 洞窟の外では雨音が絶え間なく続いていたが、焚き火の揺らめきの中で、やがて誰も言葉を発しなくなった。
 火の爆ぜる音だけが、静かに響いていた。
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