敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 ふと、アルジール国の舞踏会でミラベルに言われた言葉が、脳裏に蘇る。

 ――私はやっぱり、誰から見ても……陛下には、ふさわしくないのだわ……。

 令嬢たちの話は、さらに続いた。

「でも本命はキャロル様だって噂よ。今だって王妃様を置いて、キャロル様と別室に入っていかれたでしょう?」
 
 ――違うわ……。
 お仕事の話があるって、そう仰っていたもの……。

 心の中で必死に否定する。

「キャロル様、最近別の国の王様との縁談を破談にされたらしいの。今回の晩餐会も、エルフナルド様とのご婚約を提案するためだって……」
「エルフナルド様も、まんざらじゃなさそうよね。今の王妃様とは、まだお子もいないらしいし……妾にされる、なんてこともあるんじゃない?」

 言葉が、刃のように胸に突き刺さる。
 最初から、エルフナルドに好かれていないことは分かっていた。
 子供を作るつもりはないとも、本人からはっきり告げられている。
 そして、自分も子供など望んでいなかった。

 それなのに――。

 最近は同じ寝室で夜を過ごすことも増え、会話も増えた。
 時折、笑顔を見せてくれることもあった。
 それだけのことなのに。
 それが日常になりつつあったから、ユリアはいつの間にか、慣れてしまっていたのだ。
 自分は王妃で居続けられると、なぜ安心していたのだろう。
 先王が決めたことだからと、高をくくっていたのかもしれない。
 けれど、今の王はエルフナルドだ。
 自分など、いつでも切り捨てられる存在なのに。

 ――どうして……こんなにショックを受けているの?
 陛下のことなんて、好きじゃないはずなのに。
 それなのに、陛下のことで、こんなにも気持ちが沈むなんて……。

 最近、エルフナルドの機嫌ばかりが気になっていた。
 笑ってくれれば嬉しくて、不機嫌そうだと、何かしてしまったのではないかと不安になる。

 そんな自分を、認めたくなかった。

 ――私が認めたくないだけで……。
 本当は、陛下のことを好きになってしまっていたんだわ。

 その事実に気付いた瞬間、胸の奥が静かに震えた。
 令嬢たちはまだ何か話していたが、もうユリアの耳には、何も入ってこなかった。
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