敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

33 この胸の痛みは

 ダンスの時間になり、庭園から戻ってきたユリアは、俯きがちにエルフナルドのもとへ歩いてきた。
 泣き腫らした目を隠すように、視線を上げようとしない。

「姿が見えないから探した。どこに行っていた?」

 先程まで庭園にいたことを知りながら、エルフナルドはあえて問いかけた。
 その口調は冷静だったが、内心では返答を探っていた。

「……少し、ひとりで庭園を散歩していただけです」

 サリトスと一緒だったことを伏せるユリアの答えに、エルフナルドの胸に苛立ちが湧く。

「あまり勝手な行動をするな。お前は王妃だ。常に人目に晒されている立場だという自覚は持て」

 その言葉に、ユリアは一瞬カッとなった。

 ――見られている?
 それなら、陛下はどうなの?
 私だけが、我慢しなければならないの……?
 
 晩餐会が始まってすぐ、自分を置いてキャロルと別室へ行ったのは誰だったのか。
 胸の奥でふつふつと怒りが膨らむ。
 だが、先程サリトスに感情をぶつけてしまったことを思い出し、ユリアは唇を噛み締めた。
 
 ――これ以上、感情を露わにしてはいけない。

「……」
「何だ。言いたいことがあるなら言え。顔を見れば分かる。隠しても無駄だ」

 ますます苛立ちが募ったが、ユリアは微動だにせず、ただ口を閉ざした。

「……何だその顔は」

 エルフナルドは吐き捨てるように言った。

「腹立たしい。そんな不機嫌な顔をしたまま、隣に立たせておくわけにはいかない」

 エルフナルドは、数秒、言葉を探すように沈黙した後――

 「お前はもう部屋に戻れ」
 
 吐き捨てるように言ったが、その声はわずかに硬かった。
 我慢したはずの沈黙が、逆に彼の感情を煽ってしまっていた。
 ユリアは何も言えないまま、エルフナルドが背を向けて去っていくのを呆然と見つめていた。
 そこへキャロルが、自然な仕草でエルフナルドの腕に絡む。
 エルフナルドは振り払うこともせず、そのまま歩いていく。
 その光景を最後に、ユリアは静かに会場を後にした。

 ユリアは部屋に戻り、長椅子に横になった。
 エルフナルドが戻ってきた時、気まずくならないように――そう思い、眠ったふりをした。
 しかし、エルフナルドが部屋に戻ってくることは、朝までなかった。
 
 エルフナルドは、庭園でユリアとサリトスが並ぶ姿を思い出していた。
 苛立ちは、まだ胸の奥で燻っている。
 王妃らしく振る舞えと、強く言い過ぎたことは分かっていた。
 だが、唇を噛み締めて耐えるユリアの姿を見た瞬間、なぜか余計に腹が立った。

――あいつは、サリトスには悩みを話したのか?
 だから、泣いていたのか?
 俺には話さず、あいつには――。

 その考えに至り、怒りは頂点に達した。
 
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