敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「それでも……祝福しなければと思っていました。おふたりが愛し合っていらっしゃるのなら、私の出る幕などないと……」

 そこまで言って、キャロルは声を強めた。

「でも……!! ユリア様から、政略結婚だと伺いました。それに、ユリア様はエルフナルド様のことを、別に愛してはいないと仰っていて……。だから、ユリア様にお願いして、こうしてお時間を作っていただいたのです」

 キャロルは涙を流しながら、必死に言葉を紡いだ。

「……エルフナルド様、お願いです」

 キャロルは唇を噛み、迷うように視線を落とした。
 それでも、覚悟を決めたように顔を上げる。
 
「第ニ夫人でも構いません。どうか、私をエルフナルド様の妻にしていただけませんか?」

 キャロルの涙は止まらず、頬を伝って落ちていく。
 そして、すがるようにエルフナルドの腕を掴んだ。

「……お前の気持ちに、まったく気付いていなかったわけではなかった」

 エルフナルドは低くそう告げると、キャロルの頬を伝う涙を、そっと指で拭った。
 無意識の仕草だった。

「悲しませてしまって……申し訳ない」
「エルフナルド様……」

 キャロルはそのまま、エルフナルドの胸に顔を埋めるように抱きついた。

「確かに、あいつと俺は愛し合って結婚したわけではない」

 エルフナルドはキャロルの背中を撫でながら、静かに続けた。

「だが……今、お前を妻にすることはできない」
「……なぜですか?」

 キャロルは顔を上げ、震える声で問いかけた。

「すまない……」

 エルフナルドはそれ以上言葉を続けることができず、小さく頭を下げた。
 キャロルを妻にできない明確な理由は、自分の中にもなかった。
 ただ、何かが引っかかっている――それだけだった。
 ユリアの俯いた横顔が、脳裏に浮かんでいた。
 理由を言葉にできず、歯切れの悪い態度を取るエルフナルドに、キャロルはしばらく呆然と立ち尽くしていた。
 やがて、エルフナルドの胸元の服を掴んでいた手を静かに離すと、小さく会釈をし、その場を後にした。
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