敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 それがかえって、ユリアの胸に刺さった。

「……そんなこと、分かっています。ただ、私はキャロル様にお願いされて……それで――」
「それが迷惑だと言っている。お前は、本当に腹立たしい」

 その言葉に、ユリアの顔はかっと熱くなった。

「……そんなに私のことがお嫌いなら、もう構わないでください! 私だって、別に貴方のことなんか――」

 エルフナルドは何か言おうとして口を開き、しかし言葉を見つけられず唇を噛んだ。
 次の瞬間、ユリアの腕を引き寄せる。
 距離が消え、驚く間もなく唇を塞がれた。

「んっ……」

 あまりの衝撃に、ユリアは目を見開いたまま動けなかった。
 エルフナルドは後頭部を支え、逃げ場を与えないまま、さらに唇を重ねる。
 胸を押して離れようとしても、びくともしない。
 強引な口づけが続き、ユリアは息が苦しくなった。

「ん……はっ……へい、か……」

 かすれた声が漏れた瞬間、エルフナルドはふいに唇を離した。
 息が触れ合う距離で、視線が絡む。

「はぁ……はぁ……」

 肩で息をするユリアを見つめながら、エルフナルドは先程とは違い、そっと、包み込むように口づけた。

「……んっ」

 ――どうして、口づけなんてするの……。
 どうして、そんな切ない目で私を見るの……?

 思考が追いつかないまま、意識がふわりと遠のいていく。
 ユリアは虚ろな瞳で、ただエルフナルドを見上げていた。

「……もう、お前は寝ろ」
 
 長い口づけからようやく唇を離したエルフナルドは、ぶっきらぼうにそう言った。
 だが、その言葉とは対照的に、ユリアの髪を優しく撫でた。
 ユリアはすでに力が入らず、エルフナルドにもたれかかるように立っていた。
 エルフナルドはそんなユリアを横抱きにすると、ベッドまで運び、そのまま寝かせた。
 エルフナルドも後を追うようにベッドに入り、ユリアを抱き寄せるようにして横になる。
 ユリアは、エルフナルドの口づけの意味が分からず戸惑っていたが、耳元で聞こえる胸の鼓動が心地よく、そのまま眠りに落ちていった。
 ユリアが完全に寝息を立てるまで、エルフナルドはしばらくその顔を見つめていた。
 そして、自分が取った行動を思い返す。

 ――何故、俺は口づけをした?
 何故、こいつのことで、こんなにも胸がざわつく……。

 答えなど出るはずもなく、エルフナルドは目を閉じた。
 しかし眠りは訪れず、その夜は結局、長いまま過ぎていった。
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