敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

39 エルフナルドの提案

 寝室で、エルフナルドとユリアは向かい合って紅茶を飲んでいた。
 ルトア国から帰国してしばらくの間、二人の間には気まずい空気が漂っていたが、エルフナルドが何事もなかったかのように、これまでと変わらぬ調子で寝室にユリアを呼び続けたことで、その空気も次第に薄れていった。

「明日、市場に行くか?」

 紅茶を口にしながら、エルフナルドが唐突に言った。
 ユリアはカップをテーブルに置き、少し意外そうにエルフナルドを見る。

「明日は、特に市場へ行く予定はございませんが……」

「そういう意味ではない」

 エルフナルドはすぐに言葉を重ねた。

「以前、お前の侍女が怪我をした日の晩、公務が落ち着いたら次は一緒に行くと言っただろう。覚えていないのか?」
「あ……そのことでしたか。もちろん、覚えておりますが……」

 ユリアは、エルフナルドがその約束を覚えていたことに驚いた。
 同時に胸の奥がふっと温かくなるのを感じ、思わず言葉に詰まった。
 ――忘れていなかったのだ、と。
 
 だが、陛下の手を煩わせてはいけないという思いが先に立ち、どう返すべきか迷った。

「……陛下は他にもお忙しいでしょうし、そこまで気を使っていただかなくとも、大丈夫でございます」
「あの日も同じことを言っていたな」

 エルフナルドは前回と同じように、一歩も引かずに言い切った。

「一緒に行くと言ったはずだ」

 その言葉に、ユリアの胸がきゅっと締めつけられた。
 こんな些細なやり取りを覚えていてくれたことが嬉しくて、その気持ちを悟られるのが恥ずかしくなり、ユリアは視線を落とす。
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