敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「私にも……買いたい物がある。どのみち市場へ出る用事はあるのだ。だから、お前の用事も一緒に済ませればいい」
エルフナルドは俯くユリアを横目に、小さく息をつきながらそう言った。
「……わかりました。ありがとうございます、陛下」
ユリアは控えめに微笑み、頭を下げた。
買いたい物が本当にあるのかは分からなかったが、そこまでして一緒に行こうとしてくれるエルフナルドの気持ちが、素直に嬉しかった。
「それに、お前は馬が好きだろう? まあ、一人で乗らせるわけにはいかないがな」
茶化すような口調に、ユリアは小さく苦笑した。
翌日、市場へ向かうため、エルフナルドとユリアは王宮の門前に立っていた。
そこには門番以外の人影はなく、繋がれている馬も一頭だけだった。
「護衛の方は、後から来られるのですか?」
周囲を見渡しながら、ユリアが尋ねる。
エルフナルドは門に繋がれた馬の手綱を外すと、軽やかに馬に乗り、上からユリアを見下ろした。
「護衛は連れて行かない。俺一人で十分だ」
そう言って、ユリアに向かって手を差し出す。
「え……大丈夫なのですか?」
驚きつつも、その手を取ってユリアは馬に乗った。
後ろに座ると、エルフナルドの顔を覗き込むようにして、返答を待つ。
「あまり大人数で行っても、楽しめないだろう。それに、私は元騎士団長だ。お前を守るくらい、造作もない」
ユリアの心配をよそに、エルフナルドは馬を走らせた。
「わ、私が申しているのは、そういうことではございません。陛下は、誰がお守りするのですか?」
「私に歯向かってくる者など、そうそういない。心配するな」
それだけ言うと、エルフナルドは口を閉ざし、前を向いた。
ユリアも視線を前に向け、馬の揺れに体を任せた。
朝の光が柔らかく差し込み、風が頬を撫でる。
ユリアは、二人だけでの外出に胸の奥で、少しだけ高鳴るものを感じた。
――この先、二人きりで過ごす時間に、どんな出来事が待っているのだろう。