敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 慌てて追いかけようとした瞬間、ユリアは誰かに服の裾を引かれた気がして、思わず足を止めて振り返った。
 そこには、五歳くらいの男の子が、小さな手でユリアの服の裾を掴み、見上げていた。

「お姉ちゃん。これ、落としたよ」

 男の子の小さな手には、先ほどエルフナルドに買ってもらった植物の種の袋が握られていた。

「あら……本当ね。全然気付かなかったわ。ありがとう」

 ユリアがそう言うと、男の子はにっこりと笑い、袋を差し出した。
 それを受け取りながら、ユリアは男の子の両腕につけられた、色とりどりの石のブレスレットに目を留めた。

「そのブレスレット、どうしたの?」
「これ? これはね、お父さんが作ってるんだ! 幸せになれるブレスレットでね、願いも叶うんだよ!」

 男の子は両腕をユリアの前に突き出し、目をきらきらさせながら誇らしげに言った。

「とっても素敵ね」

 ユリアは思わず、そのブレスレットに手を伸ばした。

「お姉ちゃんも、お父さんが作ったブレスレットを見に来る?」
「そうね。せっかくだから、自慢のコレクションを見せていただこうかしら」
「いいよ! こっち!」

 男の子はユリアの腕を引いて、ぐいぐいと歩き出した。
 一瞬、エルフナルドの足が止まる。
 だが、相手が子どもだと分かると、小さくため息をついて後を追った。
 少し進んだ先にある小さな店先には、男の子が腕につけていたものと同じブレスレットが、色とりどりに並べられていた。

「いろんな色があるのね。とても綺麗……。お父さんはどこにいらっしゃるの?」

 ユリアが周囲を見渡して尋ねると、男の子は少し俯いた。

「今日はね、お父さんは別のお仕事をしてるんだ。だから、僕が売ってるんだけど……今日はなかなか売れなくて」

 そう言って、男の子は自分の腕のブレスレットを指でなぞった。

「それなら……私に一つ、売ってくれないかしら?」
「本当? 買ってくれるの?」

 男の子の表情が一気に明るくなる。
 ユリアは並べられたブレスレットをじっと見比べ、ひとつを手に取った。

「これをいただこうかしら」

 それは、深い青色のブレスレットだった。
 明るい色や華やかなものもあったが、なぜかその青が一番、目を引いた。

「お兄ちゃんも、同じのを買うだろ?」

 男の子が、ユリアの隣で様子を見ていたエルフナルドに声をかけた。

「……なかなか強引な店員だな」

 エルフナルドはそう言いながらも、男の子に視線を向ける。

「だって、恋人同士はお揃いのブレスレットをつけるものでしょ?」

 男の子はにやりと笑い、同じ青のブレスレットをエルフナルドに差し出した。

 一瞬、エルフナルドは目を見開いたが、すぐに目を細め、小さく笑った。

「……商売上手だな。分かった。この二つをもらおう」

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