敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 エルフナルドはそう言って男の子に代金を支払い、ブレスレットを受け取った。
 片方を自分の腕にはめ、もう一つをユリアに差し出す。

「ほら」

 ユリアが手を差し出した。
 少し戸惑いながらも、嬉しそうに指先を伸ばした。
 エルフナルドはそっとその手首を取り、慎重にブレスレットを滑らせて腕に通す。
 彼の手のぬくもりが、ほんの一瞬、ユリアの手に残る。

 ――陛下の瞳の色によく似ていて……とても綺麗。
 
 エルフナルドは視線を逸らさず、ユリアの様子を静かに見守っていた。
 二人の手元で揺れる小さな輪が、静かに光っていた。
 
 ニ人は再び馬に乗って王宮へと戻った。
 手綱を握るエルフナルドの腕に軽く触れ、自然と指先がブレスレットに当たる。
 その感触にユリアは微笑む。
 
「……陛下、ブレスレット……本当にありがとうございます。とても嬉しいです。大切にします」

 ユリアは小さな声でつぶやいた。
 
「もう何度も聞いた。そんなに気に入ったのか?」

 エルフナルドはユリアに尋ねる。

「はい。とっても」

 ユリアは、そっと自分の腕と陛下の腕を見比べた。

「そうか。気に入ったなら、それでいい」

 静かな馬上の時間。風の音、馬の蹄の音、そして側にいる陛下。
 全てが温かく、穏やかだった。

 王宮に戻ると、二人はそれぞれの部屋へ向かう廊下を並んで歩いた。

「……何か、願い事でもあるのか?」

 何度もブレスレットを見ているユリアに、エルフナルドがふと尋ねた。
 
「……秘密です。願い事は、誰にも言わずに祈るものなんですよ」

 ユリアはそう言って、エルフナルドを見上げた。

「……そうか。俺は少し仕事をしてから休む。お前は先に休め」

 エルフナルドは軽くうなずき、再び前を向く。
 言葉は少なくても、二人の間に流れる穏やかな空気が、今の幸福を静かに伝えていた。
 ユリアはその背中を見送りながら、そっと目を閉じ、手首のブレスレットに指先を当てた。

 ――陛下のお隣に、少しでも長くいられますように……。
 
 ユリアは目を閉じ、静かに祈りを捧げた。
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