たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
キッズモデルの仕事を始めてから、それまで以上に、あの長い段差を跨ぐようになった。だけど、その日常の変化は、元の生活が続いていかないことも意味していた。
次に石段の頂上から拓真の背中を見たとき、私は相変わらず二つ結びだけれど、セーラー服を着ていて、今からまさに大人の階段を登りはじめようとしていた。
提灯の優しい光が町を包み込む、穏やかな春の夜だった。
(あれ?拓真?)
拓真の背中もとても大きくなっていたが、なぜか肩が小刻みに上下していた。
人々の賑やかな声が各々の明かりの中に消え、落差の激しい静かな暗闇に隠れるように、途切れ途切れの、潜めた息遣いが聞こえてくる。
(……もしかして、泣いてる?)
拓真のその背中には、同い年の子供が背負うべきものではない、重たい何かが見えた。
その正体を薄らと理解し始めていた私は、もうあの頃みたいに、無闇に話しかけたりなんか、できっこなかった。
(……拓真が帰るまで、ここにいようかな)
それほど時間はかからずに、私はその啜り泣く声の理由を、知ることになる。
それは高校の合格祝いだと言って、母さんが豪勢な夕食をつくってくれた日だった。私は数々の御馳走を前にして、目を輝かせながら夢中になっていた。
「鈴子が高校生かあ。いやあ、こんなに大きくなちまって……あれ?なんだか、目から水が……」
「あら、お父さんったら……」
二人は今日も私の目の前で、ぴったりと肩を寄せ合っている。男泣きをする父さんの涙を、当たり前のように拭うのも母さんだ。
(まーた、やってるね〜おふたりさん)
「そうだ、鈴子。最近、拓真くんと会ったりしてるの?」
「……いや?」
(あの日見たことは、そっと胸にしまっておこう……)
「お母さん、千世さんと話したんだけどね。拓真くんも東芸らしいのよ」
(ああ、千世さんって、拓真のお母さんか。まあ、そうだよね。ここから通える芸能高校ってだけで、限られてくるからなあ)
「へえ〜、拓真は?元気だって?」
「それがねえ、劇団畳むらしくって。拓真くんは事務所の寮?かなんかに入ったから、会えてないんだって」
「……えほっ、エホッ、……はあ〜??何それ!」
私は驚きのあまり、食卓に大きく手をつきながら、勢いよく立ち上がった。
私は、拓真みたいにはどうやってもなれない。
そもそも、私は拓真みたいになりたかったわけでもない。
そんな分かり切った答えから、ずっと逃げていただけで、自分でもさすがに理解できていた。
だとしても、これだけは心に決めていた。
仕事がもらえる以上は、自分から投げ出すことはしない。責任をもって最後までやり遂げてみせる。
拓真が、昔からずっとそうだったから。
少しだけ、その背中が見えたように勘違いしていられたから。
小さい頃から自分よりはるか先へと進んでいく拓真に、こうしていれば少しは近づける日がくるのだと、無理矢理にも思い込ませてきた。
でも、やっぱりその背中は、今でも見えないくらい遠い場所にある。
次に石段の頂上から拓真の背中を見たとき、私は相変わらず二つ結びだけれど、セーラー服を着ていて、今からまさに大人の階段を登りはじめようとしていた。
提灯の優しい光が町を包み込む、穏やかな春の夜だった。
(あれ?拓真?)
拓真の背中もとても大きくなっていたが、なぜか肩が小刻みに上下していた。
人々の賑やかな声が各々の明かりの中に消え、落差の激しい静かな暗闇に隠れるように、途切れ途切れの、潜めた息遣いが聞こえてくる。
(……もしかして、泣いてる?)
拓真のその背中には、同い年の子供が背負うべきものではない、重たい何かが見えた。
その正体を薄らと理解し始めていた私は、もうあの頃みたいに、無闇に話しかけたりなんか、できっこなかった。
(……拓真が帰るまで、ここにいようかな)
それほど時間はかからずに、私はその啜り泣く声の理由を、知ることになる。
それは高校の合格祝いだと言って、母さんが豪勢な夕食をつくってくれた日だった。私は数々の御馳走を前にして、目を輝かせながら夢中になっていた。
「鈴子が高校生かあ。いやあ、こんなに大きくなちまって……あれ?なんだか、目から水が……」
「あら、お父さんったら……」
二人は今日も私の目の前で、ぴったりと肩を寄せ合っている。男泣きをする父さんの涙を、当たり前のように拭うのも母さんだ。
(まーた、やってるね〜おふたりさん)
「そうだ、鈴子。最近、拓真くんと会ったりしてるの?」
「……いや?」
(あの日見たことは、そっと胸にしまっておこう……)
「お母さん、千世さんと話したんだけどね。拓真くんも東芸らしいのよ」
(ああ、千世さんって、拓真のお母さんか。まあ、そうだよね。ここから通える芸能高校ってだけで、限られてくるからなあ)
「へえ〜、拓真は?元気だって?」
「それがねえ、劇団畳むらしくって。拓真くんは事務所の寮?かなんかに入ったから、会えてないんだって」
「……えほっ、エホッ、……はあ〜??何それ!」
私は驚きのあまり、食卓に大きく手をつきながら、勢いよく立ち上がった。
私は、拓真みたいにはどうやってもなれない。
そもそも、私は拓真みたいになりたかったわけでもない。
そんな分かり切った答えから、ずっと逃げていただけで、自分でもさすがに理解できていた。
だとしても、これだけは心に決めていた。
仕事がもらえる以上は、自分から投げ出すことはしない。責任をもって最後までやり遂げてみせる。
拓真が、昔からずっとそうだったから。
少しだけ、その背中が見えたように勘違いしていられたから。
小さい頃から自分よりはるか先へと進んでいく拓真に、こうしていれば少しは近づける日がくるのだと、無理矢理にも思い込ませてきた。
でも、やっぱりその背中は、今でも見えないくらい遠い場所にある。