たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
近くて、遠い
あの日から季節は三度めぐり、東芸高生として迎える最後の春がやってきた。
「おはよう〜」
私は着倒したブレザーの胸ポケットから、ローズのリップを取り出しながら、朝の食卓に向かう。
この頃になると、キッズモデル「こはりん」のイメージを崩さないようにつくっていたぱっつん前髪は顎下まで伸び、明るい色に変えた髪も下ろすことが多くなっていた。
父さんは朝の仕込みに取り掛かるために、すでに働き出していて、残された母さんはテレビを見ながら束の間のくつろぎ中だ。
「ほら!鈴子も見てよ〜?」
「なに〜?」
母さんが指差すテレビの中では、長身のスラリとした青年がスーツに身を固めて、輝くトロフィーを手に、精悍な顔つきでスピーチしていた。
「映画『父子の一生』で、最優秀助演賞を受賞されました。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「歴代最年少での受賞となります。今のお気持ちを!」
「えーっと、そうですね……偉大な先輩の背中をそばで見させていただけたことが、本当に大きな経験になったと思います。寺沢さんに食らいつく気持ちで、日々模索を繰り返しながら、撮影に挑みました。その先で、このような素晴らしい賞をいただけたことは、今後の人生でも、きっと大きな糧になってくれると思います」
今の時代には珍しくなった、日本男児らしい美しい顔立ちは、あの頃から全く変わっていないから、一目ですぐに誰だか分かった。
でも、つい最近のことのようにすぐにでも思い出せるあの男の子の声は、いつの間にか男性のものに変わり、またうんと遠くなった感じがする。
(リモコンは……っと)
私はずっと気がかりだった拓真の、変わったようで変わりのない、その姿に満足すると、そばにあったリモコンに手を伸ばし、別の局の数字を押した。
「あら?チャンネル変えちゃうの?」
「私、朝はPUPU派なの〜母さんもいい加減覚えてよ〜」
(ふう〜ここまで人気者になると、やっぱり見ないようにするってのも、無理があるよねえ……)
校舎の正面玄関にぴったりと沿うように停められた大きな車からは、身なりがきっちりと整えられた学生たちが降りてくる。
私は春のそよ風から守るように、スクールスカートを抑え、視界を塞ぐ長い髪を耳にかけながら、朝の挨拶の流れに加わっていく。
「先生、おはよう〜」
(…はぁ……変な気を遣わせないように、明るく明るく)
「小濱。お前は今日も早いな」
「早起きだけは得意だからね〜」
「ちょっとくらい、サボることも覚えたらどうだ?」
「うわ〜ひっど〜!毎日頑張って来てあげてるのに〜」
(……強い思い入れがあるわけでもないのに、勝手に哀れな目で見られるのだけは、勘弁だからね)
あんな心持ちの人間が、気高い志や目指すものをしっかりと持ち始めた同世代の中で、戦えるはずもなかった。
私はあと数日で、東芸高校初の「三年間無遅刻無欠席」という胸を張って良いんだか、悪いんだか分からない記録を残してしまおうとしている。
まあ、芸能高校の生徒にとって「無遅刻無欠席」を達成するのが、それほど難しいということでもある。
いつも教室に入ると向かうのは、廊下側から数えて二列目の最後尾。私の席は有無を言わさず、三年間ずっとこの位置に固定されていた。
誰もいない朝一番の寂しい静けさに嫌気がさしていたところに、興奮気味の声を連れて、走ってやってきたのは同級生の美琴だ。
「おはよう〜」
私は着倒したブレザーの胸ポケットから、ローズのリップを取り出しながら、朝の食卓に向かう。
この頃になると、キッズモデル「こはりん」のイメージを崩さないようにつくっていたぱっつん前髪は顎下まで伸び、明るい色に変えた髪も下ろすことが多くなっていた。
父さんは朝の仕込みに取り掛かるために、すでに働き出していて、残された母さんはテレビを見ながら束の間のくつろぎ中だ。
「ほら!鈴子も見てよ〜?」
「なに〜?」
母さんが指差すテレビの中では、長身のスラリとした青年がスーツに身を固めて、輝くトロフィーを手に、精悍な顔つきでスピーチしていた。
「映画『父子の一生』で、最優秀助演賞を受賞されました。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「歴代最年少での受賞となります。今のお気持ちを!」
「えーっと、そうですね……偉大な先輩の背中をそばで見させていただけたことが、本当に大きな経験になったと思います。寺沢さんに食らいつく気持ちで、日々模索を繰り返しながら、撮影に挑みました。その先で、このような素晴らしい賞をいただけたことは、今後の人生でも、きっと大きな糧になってくれると思います」
今の時代には珍しくなった、日本男児らしい美しい顔立ちは、あの頃から全く変わっていないから、一目ですぐに誰だか分かった。
でも、つい最近のことのようにすぐにでも思い出せるあの男の子の声は、いつの間にか男性のものに変わり、またうんと遠くなった感じがする。
(リモコンは……っと)
私はずっと気がかりだった拓真の、変わったようで変わりのない、その姿に満足すると、そばにあったリモコンに手を伸ばし、別の局の数字を押した。
「あら?チャンネル変えちゃうの?」
「私、朝はPUPU派なの〜母さんもいい加減覚えてよ〜」
(ふう〜ここまで人気者になると、やっぱり見ないようにするってのも、無理があるよねえ……)
校舎の正面玄関にぴったりと沿うように停められた大きな車からは、身なりがきっちりと整えられた学生たちが降りてくる。
私は春のそよ風から守るように、スクールスカートを抑え、視界を塞ぐ長い髪を耳にかけながら、朝の挨拶の流れに加わっていく。
「先生、おはよう〜」
(…はぁ……変な気を遣わせないように、明るく明るく)
「小濱。お前は今日も早いな」
「早起きだけは得意だからね〜」
「ちょっとくらい、サボることも覚えたらどうだ?」
「うわ〜ひっど〜!毎日頑張って来てあげてるのに〜」
(……強い思い入れがあるわけでもないのに、勝手に哀れな目で見られるのだけは、勘弁だからね)
あんな心持ちの人間が、気高い志や目指すものをしっかりと持ち始めた同世代の中で、戦えるはずもなかった。
私はあと数日で、東芸高校初の「三年間無遅刻無欠席」という胸を張って良いんだか、悪いんだか分からない記録を残してしまおうとしている。
まあ、芸能高校の生徒にとって「無遅刻無欠席」を達成するのが、それほど難しいということでもある。
いつも教室に入ると向かうのは、廊下側から数えて二列目の最後尾。私の席は有無を言わさず、三年間ずっとこの位置に固定されていた。
誰もいない朝一番の寂しい静けさに嫌気がさしていたところに、興奮気味の声を連れて、走ってやってきたのは同級生の美琴だ。