結婚当日に夫が愛人を紹介してきたから、ヤケで愛人募集したら王弟殿下が志願してきた件。
 アーヴィンが侍従に耳打ちをすると、侍従はエマと護衛を別の場所へと案内するが、それは少し離れた場所で、そこからこちらの様子もよく見えるようだ。ただ、私たちの声は届かないだろう。
「せっかくだから、彼女たちにも美味しいお菓子を食べてもらおう。あそこであれば、俺たちの様子はわかるが、声までは聞こえないからな」
 侍女たちがお茶の用意をしているうちに、彼はこそっと私の耳元でささやいた。吐息が耳に触れ、慣れない感覚に首をすくめる。
 そうこうしているうちにお茶の用意も整い、彼女たちも静かにその場を後にする。
 そしてアーヴィンの視線が、私の手にしている籠を捉えた。
「それは?」
「あ、これは……」
 私が作りました、と言えればいいのに、その言葉がすんなりと出てこない。恥ずかしさと照れくささが交じって、私の顔を火照らせる。
「甘いにおいがするみたいだが?」
 ニヤニヤしているアーヴィンを見たら、今度はちょっとだけイラッとしてしまった。彼は私が困っている様子を見て楽しんでいるのだ。だから、無言のまま籠をアーヴィンに押しつけた。
< 163 / 181 >

この作品をシェア

pagetop