結婚当日に夫が愛人を紹介してきたから、ヤケで愛人募集したら王弟殿下が志願してきた件。
 まぁ、と大げさに夫人は口元に手を当てた。
「もしかして……お聞きになっていない? あっ……内緒だったのかしら……」
 ぼそぼそと言葉を発する彼女に、私はまるで心当たりがないとでも言うように、少しだけ首を傾ける。
「ごめんなさい。悪気があったわけではないのよ。マダムコールが、新作ドレスをロンペル子爵が頼んだと言っていたのよ? だからてっきりあなたのためにと思っていて……サプライズなのね! 今、言ったことは聞かなかったことにしてちょうだい。そして新作ドレスを送られたときには、是非、着てきてちょうだいね。あのドレスを着こなせるのはあなたしかいないと思っているの」
 ころころと表情を変えるミュゲ夫人の言葉は心からのもので、嫌みでもなんでもない。
 ただ今の会話から察するに、シオドアは新作のドレスを買っており、そしてミュゲ夫人はそれが私への贈り物だと思っている。
 しかし、残念ながらシオドアからドレスなど届かないだろう。私がマダムコールの新作ドレスを着る機会はないため、ミュゲ夫人の希望を叶えることはできない。
 と、わざわざ口にする必要もない。
「はい。聞かなかったことにしておきます。楽しみにしておりますわね」
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