結婚当日に夫が愛人を紹介してきたから、ヤケで愛人募集したら王弟殿下が志願してきた件。
 そう褒め称えるのはエマである。彼女のほうが泣きそうになりながら、私の化粧を直してくれた。
 学園を卒業して二年、エマもロイル侯爵家の侍女に相応しい技能を身につけている。
 父は彼女を養子にしたうえで、王城での文官勤めを推薦しようとしたらしいが、エマ本人がそれを断った。理由は、私つきの侍女として一緒にポーレット公爵家へと来ることを望んだから。
 本来であれば平民が侯爵からの提案を断るなんてあってはならない。だけど、理由が理由なだけに父はエマを心底信頼し「イレーヌを頼むよ」と励ましたくらいである。
 私もエマが一緒にいてくれるなら心強い。
「イレーヌさん、準備はできたかしら……まぁ、本当に素敵ね」
 いつの間にか戻ってきていた公爵夫人が、母を連れて様子を見にきたようだ。
「イレーヌ……きれいだわ……」
 いつもは父を尻に敷いているような強気な母も、さすがに今はしっとりと感慨に耽っている。
「ありがとうございます」
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