結婚当日に夫が愛人を紹介してきたから、ヤケで愛人募集したら王弟殿下が志願してきた件。
 アーヴィンが私の耳元でささやいたその言葉は、シオドアたちの耳にも届いていたようだ。リンダの「王弟殿下が?」とぼそりと呟く声が聞こえた。
 私はコクリと喉を鳴らす。
「王弟という立場はわりと自由だからな。だが、これでも一応王族だ。地位はある。金もある。どうだ? 今ならお買い得だと思わないか?」
 まるで商品のような言い方に、私はくすっと笑みをこぼした。
「それに、知っているか? この国では、王族にかぎって略奪婚が認められている」
 ただしそれは『本当に愛する者と出会ったときに限る』とされており、相思相愛が絶対条件だ。ただの横恋慕では認められない。
 私は小さく息を吐いて、アーヴィンを見上げた。彼の紫眼が、どこか不安げに揺れていた。
「えぇ、知っています。ただし、お互いに想い合っている場合に限る、ともありますね」
「さすがイレーヌだな。だから君の愛人に志願したい。俺なんかどうだ? さっきも言ったように、かなりお得だと思うが?」
 シオドアが身体を強張らせ、その様子をリンダが不安げに見つめる。
「素敵なお話ですね」
「では、俺の提案を受けてくれると。そういうことでいいのかな?」
 その言葉に頷いた私は、アーヴィンが差し出した手に、そっと自分の手を重ねた。
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