泡のような世界で君と恋をする
「いい名前だ」

 淡々とした口調なのに、否定できない温度がある。

「覚えた」

 その一言で、逃げ道がまた一つ消えた気がした。

 周囲の人魚たちが、面白そうに囁き合う。

「名前呼んだ」

「珍しいね」

「相当だ」

 何が、相当なのか。
 聞かなくても分かってしまうのが、怖い。

「……ルシア。だっけ?」

気づいたら、私も名前を呼んでいた。

 混乱していて、考える余裕もなくて。
 ただ、呼ばなきゃいけない気がして。

 彼は一瞬だけ目を見開き、すぐに視線を細めた。

「僕の名前を呼ぶのは、簡単にしないほうがいい」

「……ごめん、なさい」

「謝る必要はない」

 そう言って、私の顎に指をかける。

 逃げられない距離。
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