初恋の君は、闇を抱く。

ヒーローの仮面――Eve Side――


――Eve side――

ゼロ番の夜は、基本うるさい。

笑い声も、怒鳴り声も、誰かのため息も混ざって、全部が雑音になる。


なのに。

あいつが名前を口にした瞬間だけ、
音が消えた。


「〝凪〟って呼んで?」


胸の奥に沈めていた記憶が一気に浮き上がる。


――凪。

何度この名前を呼んだことか。

夕方の公園で、ランドセルを背負ったまま。


「凪!おっせーな。早く来いよ」

「置いて行かないでよ!」


そんな声まではっきり蘇る。


……やっぱり。


別人なわけがなかった。

声も目も、少し困った時に口元を噛む癖も。

変わったのは背丈と、俺の立ち位置だけだ。


「……凪か」


思わず口にしてしまった。

声に出しただけで、喉がひりつく。

もうこの名前を呼ぶことはないと思っていたのに。


ここで俺が〝一颯〟だとバレたら。


凪の中での俺が壊れる気がした。

こんな落ちた〝一颯〟を知ってほしくない。


< 19 / 28 >

この作品をシェア

pagetop