レンズ越しの純情
編集部に到着すると、そこはいつにも増して殺気立っていた。次号の巻頭特集のレイアウトが大幅に遅れているらしい。
「あ、天野さん。連れてきたの?」
出迎えたのは、美琴の一年先輩である土井菜々子だった。彼女は海都を一目見るなり、あからさまに品定めするような視線を投げた。
「……ふーん。まあ、顔はいいんじゃない? でも、男の子を『Vivid』に乗せるなんて、正直リスクしかないと思うけど」
菜々子のトゲのある言葉に、美琴の心臓がちくりと痛む。
「そんなことないです。編集長も期待されてますし、水口くんには彼にしか出せない空気感があるんです」
「へえ、言うじゃない。雑用のやりすぎでセンスまで鈍ってなきゃいいけど」
菜々子は鼻で笑うと、興味を失ったように背を向けた。
美琴はおずおずと海都を振り返る。彼はそんな女たちのやり取りなどどこ吹く風で、編集部の壁に貼られた過去の誌面をぼんやりと眺めていた。
「……ごめんね。みんな忙しくて、ちょっとピリピリしてるの」
「いえ。気にしてません」
海都は無表情のまま応えたが、その瞳は鋭く、何かを見極めようとしているように見えた。
「水口くん、今日からあなたのスケジュールは私が管理することになったから。分からないことがあったら何でも聞いてね」
「はい。……天野さん」
「なあに?」
海都は少しだけ身を乗り出し、美琴の耳元で囁くように言った。
「あの人、天野さんのこと馬鹿にしてますよね。なんで言い返さないんですか?」
不意を突かれた美琴は、言葉に詰まった。
「……それが、仕事だから。波風立てないのが一番なんだよ」
「ふーん。……僕は嫌いです、ああいうの」
海都はそう言い捨てると、早織が待つ編集長室へと迷いのない足取りで歩き出した。
美琴はその背中を見つめながら、これから始まる前途多難な日々に、期待と不安が入り混じった溜息をつくしかなかった。
「あ、天野さん。連れてきたの?」
出迎えたのは、美琴の一年先輩である土井菜々子だった。彼女は海都を一目見るなり、あからさまに品定めするような視線を投げた。
「……ふーん。まあ、顔はいいんじゃない? でも、男の子を『Vivid』に乗せるなんて、正直リスクしかないと思うけど」
菜々子のトゲのある言葉に、美琴の心臓がちくりと痛む。
「そんなことないです。編集長も期待されてますし、水口くんには彼にしか出せない空気感があるんです」
「へえ、言うじゃない。雑用のやりすぎでセンスまで鈍ってなきゃいいけど」
菜々子は鼻で笑うと、興味を失ったように背を向けた。
美琴はおずおずと海都を振り返る。彼はそんな女たちのやり取りなどどこ吹く風で、編集部の壁に貼られた過去の誌面をぼんやりと眺めていた。
「……ごめんね。みんな忙しくて、ちょっとピリピリしてるの」
「いえ。気にしてません」
海都は無表情のまま応えたが、その瞳は鋭く、何かを見極めようとしているように見えた。
「水口くん、今日からあなたのスケジュールは私が管理することになったから。分からないことがあったら何でも聞いてね」
「はい。……天野さん」
「なあに?」
海都は少しだけ身を乗り出し、美琴の耳元で囁くように言った。
「あの人、天野さんのこと馬鹿にしてますよね。なんで言い返さないんですか?」
不意を突かれた美琴は、言葉に詰まった。
「……それが、仕事だから。波風立てないのが一番なんだよ」
「ふーん。……僕は嫌いです、ああいうの」
海都はそう言い捨てると、早織が待つ編集長室へと迷いのない足取りで歩き出した。
美琴はその背中を見つめながら、これから始まる前途多難な日々に、期待と不安が入り混じった溜息をつくしかなかった。