レンズ越しの純情
​「じゃあ、テストショットいくよ。水口くん、適当に動いてみて」

​スタジオの白いホリゾントの中に、海都がぽつんと立った。カメラマンの無造作な指示に、美琴はハラハラしながら見守る。ついさっきまで「なんで僕なんですかね」なんて無欲なことを言っていた彼だ。緊張して棒立ちになってしまうのではないかという不安がよぎる。

​しかし、シャッターが切られた瞬間、その場にいた全員の空気が凍りついた。


​「……ッ!」

​海都が少しだけ顎を上げ、視線をカメラに流す。

それだけで、スタジオの平坦な空気が、一気に重力を持ったような緊張感に包まれた。


​気だるげにポケットに手を入れる。

首筋のラインを強調するように顔を背ける。

その一つ一つの動きが、計算されているわけでもないのに、残酷なほどに美しい。

レンズを見据える彼の瞳は、車の中で見せたぼんやりとしたものとは別人のように、鋭く、それでいて深い孤独を湛えていた。

​「いい……すごくいいよ、水口くん!」

さっきまで冷ややかだったカメラマンが、狂ったようにシャッターを切り始める。

​美琴は、息をするのを忘れてその光景を眺めていた。

(何、これ……)

ただ立っているだけなのに、彼の周りだけ光の粒子が細かくなっているように見える。圧倒的な「主役」の輝き。これが、編集長が見抜いた才能なのか。

​モニターに次々と映し出される彼の姿は、どれも21歳の大学生とは思えないほどの色気を放っていた。

けれど、ふと目が合った一瞬。

海都はレンズ越しに美琴を見つけ、ほんのわずかに、助けを求めるような幼い光を瞳に宿した。

​「……天野さん」

撮影の合間、海都がスタッフの隙を縫って美琴に近づいてきた。

「僕、これで合ってますか?」

​さっきまでの神がかった雰囲気はどこへやら、そこにはまた、どこか頼りなげな「やりにくい年下男子」が立っていた。

美琴は震える声で答える。

「……合ってるどころか、最高だよ。水口くん、あなた、化けるね」

​その言葉に、海都は照れるわけでもなく、ただ不思議そうに自分の手を見つめていた。
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