レンズ越しの純情
撮影の機材が片付けられるガタガタという音を聞きながら、美琴はスタジオの隅で、海都のために用意したペットボトルを差し出した。

​「お疲れ様。……本当に、すごかった」

「……そうですか」

​海都は受け取った水のキャップをひねり、喉を鳴らして一気に飲んだ。撮影中のあの鋭い眼光はどこへやら、今の彼はどこにでもいる、少し疲れ切った大学生の顔に戻っている。

​「水口くん、カメラの前だと全然違うんだね。びっくりしちゃった」

「自分じゃ、よく分かんないです。……ただ、あのライトが当たると、どこを見ていいか分からなくなって」

「それでいいんだよ。あの『どこを見ていいか分からない』感じが、すごくアンニュイで綺麗だった」

​美琴が興奮気味に伝えると、海都は少しだけ居心地悪そうに視線を泳がせた。

​「アンニュイ……。褒められてるんですよね、たぶん」

「もちろん! 最大級の褒め言葉だよ」

​美琴は、自分の仕事用のノートに今日の彼の様子を細かく書き留めた。どの角度が綺麗か、どんな指示にどう反応したか。その必死な様子を、海都は隣で黙って見ていた。

​「天野さんって、いっつもそうやってメモしてるんですか?」

「え? ああ、これ? 忘れないようにね。私は大久保さんみたいに勘が良くないから、こうやって書いておかないと不安なの」

​美琴が自嘲気味に笑うと、海都はふいにお弁当の山が積まれたテーブルの方を指差した。

​「……あのお弁当、食べていいですか。お腹空きました」

「あ、ごめん! 気が利かなかったね。こっち、一番豪華そうなやつ取っておいたから」

​美琴に案内され、海都はパイプ椅子に腰を下ろす。豪華なロケ弁を前にしても、彼は「いただきます」と小さく呟くだけで、淡々と箸を動かし始めた。その飾り気のなさが、かえって美琴の緊張を解いていく。

​「……あの、天野さん」

「ん?」

「さっき、僕のこと『化ける』って言いましたよね。……あれ、本当ですか?」

​箸を止めて見つめてくる海都の瞳は、驚くほど真っ直ぐで、そして少しだけ不安げだった。
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