最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
一 あるところに

第1話 公爵閣下

──第五遊撃連隊〈白鳥(シュヴァーン)〉連隊長カイ・アーベントロート。ローゼンシュタット王国三大公爵家アーベントロート公爵家が現当主。

「エミリー、君以外に勃たなくなった! 責任を取ってくれ!」

 三回強めのノックをした後、応対に出たエミリーに、開口一番そんなふざけたことをほざいた彼である。軍服の代わりに纏っているのは、仕立てのいいチャコールのフロックコート。胸には金のブローチが光る。デザインは交差剣に月桂樹。アーベントロート公爵家の紋章だ。

「お帰りください、准将閣下。話すことはございません」

 古ぼけた木扉を閉めようとする。彼のことをエミリーは「准将閣下」と呼ぶのが常だった。寝台の上では「カイ様」と。しかし、エミリーが閉めようとした扉の隙間に彼は革靴の爪先を差し込んできた。おそらく、エミリーの食費半年分は優にする高級靴だろう。望んで靴を傷つけたくはない。弁償沙汰になったら困る。そして、蝶番が、ぎしっと嫌な音を立てた。扉を無理やり閉めることを、諦めた。

「話を聞いてくれ。切実なんだ」

「こちらは切実に話をしたくありません。……あ、ちょっと!」

 それでも会話の隙を狙って扉を閉めようとしていたエミリーの手の力が緩んだ一瞬を見計らって、彼が室内に身体を滑り込ませた。昔からこういう身体使いが上手かった。戦闘のときも、夜伽のときも。むかつく。
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