最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
 バラックは砦の奥まった位置にあって、二階建て。年季の入った漆喰壁には蔦が絡まっている。築何年かはあまり考えたくない。指示された通りバラックの裏手の方に回ると、露天の湯場がある。岩を組んだだけの簡単なものだが、近くの山から温泉を引いているとのことで、すぐに汗を流せる環境は快適ではありそうだ。やはり女子なので清潔は気にする。

 岩の向こうに、人影があった。立ち上がった。

 第一印象、筋肉の塊。

 血で染めたような暗赤色の髪が濡れて額に張りつき、珊瑚礁の海の水で染めたような碧色の切れ長の瞳が涼やかだ。彼はぱちりと長い睫毛を瞬かせる。目鼻立ちは気持ちのいいほど整っている。ほっそりとした顎のラインには軽く無精髭。

 全裸だ。

 筋骨隆々、という言葉がこれほど的確に当てはまる肉体を今までエミリーは見たことがなかった。幼年学校にも体格のいい教官はいたが、それとは次元が違う。鍛え上げたというよりは、戦場という彫刻刀に削り出された、という印象がしっくりくる身体つきだった。

 一糸まとわぬ、全裸だった。自然と視線は股間に吸い寄せられる。

「よう、幼年学校卒の新入り。確か名は、エミリー・ガルデニエ少尉だったかな? さあ、ようこそ、〈白鳥(シュヴァーン)〉の巣へ──」

 それが「彼」との最悪な馴れ初めだった。
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