最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
そうやって部屋にずかずかと入り込んでしまった彼は、エミリーの住まう築五十年の木造アパートの小さな部屋をぐるりと隅から隅まで舐めるような目つきで見渡す。
ところどころ剥がれ落ちそうな壁紙。他にやることもないので掃除は行き届いているものの、逆に言えば物が少なく殺風景な内装。食料品棚には、乾パンの缶詰が二個だけ。軍で配布されたものを食べるにも惜しくて取っておいたものだ。日焼けして色が褪せたリネンのカーテン。いかにもマットレスが擦り減り薄っぺらい寝台。冷めた二番煎じの紅茶もどきが入っている塗装の剥げたマグカップ。
「…………」
彼は黙りこくってはいても、その視線が、こんな粗末なところで暮らしているのか、とでも言いたげだった。それはそうだろう、勝手に豪奢な調度品に囲まれて、勝手にご馳走が出てくる公爵様のお屋敷とは訳が違うのだ。
そして彼は、再びエミリーをまじまじと見つめた。
「ここに、住んでいたのか」
「そうですが。冷やかしはお済みですか? では、お帰りくださいね」
「帰らん」
会話だけ抽出すれば、セフレの交わすそれである。
「帰っていただきます、准将閣下。さあっ!」
すると彼は壁沿いにある薄いマットレスの寝台にどかりと腰かけた。体重がエミリーの1.5倍はある男が座り込んだので、骨組みが悲鳴をあげた。
「俺は元准将閣下だ。今の俺は公爵閣下。元准将閣下にお願いするのなら、人違い。だから、帰らん」
「…………」
無言で、きっ、と睨みつけるも、彼は物ともしないように居直った。
「もてなしはさておき、公爵になんの会話もなく追い出すのはどうかと思うが?」
「その公爵閣下とやらも、ついにお立場を傘に着るようになったのですね。あら、これは大変失礼いたしました。いえ、大変失望いたしました」
「勝手に失望してくれ」
途端に、ぐう、と腹の虫が主人に反乱を起こした。この裏切り者め。
「君、やはり、腹が減っているのか」
ぐるるるう……。
返事の代わりに、もう一度。かあっと頬が熱くなる。きっと、赤面していた。穴があったら入りたくなった。いや、胃という穴があったら食物を入れたくなった。
ところどころ剥がれ落ちそうな壁紙。他にやることもないので掃除は行き届いているものの、逆に言えば物が少なく殺風景な内装。食料品棚には、乾パンの缶詰が二個だけ。軍で配布されたものを食べるにも惜しくて取っておいたものだ。日焼けして色が褪せたリネンのカーテン。いかにもマットレスが擦り減り薄っぺらい寝台。冷めた二番煎じの紅茶もどきが入っている塗装の剥げたマグカップ。
「…………」
彼は黙りこくってはいても、その視線が、こんな粗末なところで暮らしているのか、とでも言いたげだった。それはそうだろう、勝手に豪奢な調度品に囲まれて、勝手にご馳走が出てくる公爵様のお屋敷とは訳が違うのだ。
そして彼は、再びエミリーをまじまじと見つめた。
「ここに、住んでいたのか」
「そうですが。冷やかしはお済みですか? では、お帰りくださいね」
「帰らん」
会話だけ抽出すれば、セフレの交わすそれである。
「帰っていただきます、准将閣下。さあっ!」
すると彼は壁沿いにある薄いマットレスの寝台にどかりと腰かけた。体重がエミリーの1.5倍はある男が座り込んだので、骨組みが悲鳴をあげた。
「俺は元准将閣下だ。今の俺は公爵閣下。元准将閣下にお願いするのなら、人違い。だから、帰らん」
「…………」
無言で、きっ、と睨みつけるも、彼は物ともしないように居直った。
「もてなしはさておき、公爵になんの会話もなく追い出すのはどうかと思うが?」
「その公爵閣下とやらも、ついにお立場を傘に着るようになったのですね。あら、これは大変失礼いたしました。いえ、大変失望いたしました」
「勝手に失望してくれ」
途端に、ぐう、と腹の虫が主人に反乱を起こした。この裏切り者め。
「君、やはり、腹が減っているのか」
ぐるるるう……。
返事の代わりに、もう一度。かあっと頬が熱くなる。きっと、赤面していた。穴があったら入りたくなった。いや、胃という穴があったら食物を入れたくなった。