最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
彼が頭だけを動かし振り返って、再び食料品棚に視線を投げかけた。そこには軍製乾パンの缶が二つ沈黙しているだけ。彼は他に食料がないことを見事に察したようだった。
「最後に食べたのは?」
「朝は抜きました」
「昨晩は?」
「昨晩は……抜きました」
彼が額を手で軽く押さえて、はあ……と溜め息をつく。
「話の前に、腹ごしらえだ。腹が減っては戦はできぬ、と言ったものだろう。元部下に餓死されては寝覚めが悪すぎるが?」
「嫌ですっ」
ぐう。
腹の虫は主人の意思に反して貪欲に食物を求めていたのだった。もはや獣だった。胃が明確に満腹を要求している。最後にまともな食事をとったのはいつだったか。確か、一昨日の昼に食べた乾パン半缶だ。残りの半缶はまるでマドレーヌと勘違いしたかのように紅茶もどきに浸してふやかしつつ、ちびちびと昨日の朝に齧ってそれきり。
するとなぜか、彼は痛みをこらえるように沈痛な面持ちになった。
「憐憫でしたら、いりません」
「そうだな。君は昔から、そうだった」
「もう終わった過去を……昔話を、しないでください。虫唾が走ります」
「すまない。……詫びに奢るから」
こちらも短く溜め息をついて、壁にかけてあった灰色の旅用コートを無造作に羽織った。軍の官給品の払い下げだ。色は褪せ、袖口は擦り切れ、ボタンは一つ欠けている。欠けたボタンの穴には、代わりに安全ピンが刺さっていた。
またしても彼は無言で目を細めた。何かを言いかけて、やめる。何も言わないのが、かえって居心地が悪い。哀れまれているのか、それとも、怒っているのか。どちらにしても彼は身勝手で、それがとても不愉快だった。
外に出ると、アパートの前に黒く塗られた御用馬車が整然と停まっていた。馭者台には糊のきいた正装の馭者がいて、扉には当然のように公爵家の紋章が金箔貼りで装飾されている。
「目立つのは得意でな」
「得意不得意については触れていません」
「ふふっ。さ、行こうか」
微笑んだ彼は手を差し伸べてきた。その手を取ってしまう自分が憎たらしい。そうやってエスコートされて馬車に乗り込む。ふかふかの座面は、雲上人が乗る馬車にふさわしく、自分が場違いであると思い知らせてくるように快適だった。それが、最悪の気分を助長させていた。
「最後に食べたのは?」
「朝は抜きました」
「昨晩は?」
「昨晩は……抜きました」
彼が額を手で軽く押さえて、はあ……と溜め息をつく。
「話の前に、腹ごしらえだ。腹が減っては戦はできぬ、と言ったものだろう。元部下に餓死されては寝覚めが悪すぎるが?」
「嫌ですっ」
ぐう。
腹の虫は主人の意思に反して貪欲に食物を求めていたのだった。もはや獣だった。胃が明確に満腹を要求している。最後にまともな食事をとったのはいつだったか。確か、一昨日の昼に食べた乾パン半缶だ。残りの半缶はまるでマドレーヌと勘違いしたかのように紅茶もどきに浸してふやかしつつ、ちびちびと昨日の朝に齧ってそれきり。
するとなぜか、彼は痛みをこらえるように沈痛な面持ちになった。
「憐憫でしたら、いりません」
「そうだな。君は昔から、そうだった」
「もう終わった過去を……昔話を、しないでください。虫唾が走ります」
「すまない。……詫びに奢るから」
こちらも短く溜め息をついて、壁にかけてあった灰色の旅用コートを無造作に羽織った。軍の官給品の払い下げだ。色は褪せ、袖口は擦り切れ、ボタンは一つ欠けている。欠けたボタンの穴には、代わりに安全ピンが刺さっていた。
またしても彼は無言で目を細めた。何かを言いかけて、やめる。何も言わないのが、かえって居心地が悪い。哀れまれているのか、それとも、怒っているのか。どちらにしても彼は身勝手で、それがとても不愉快だった。
外に出ると、アパートの前に黒く塗られた御用馬車が整然と停まっていた。馭者台には糊のきいた正装の馭者がいて、扉には当然のように公爵家の紋章が金箔貼りで装飾されている。
「目立つのは得意でな」
「得意不得意については触れていません」
「ふふっ。さ、行こうか」
微笑んだ彼は手を差し伸べてきた。その手を取ってしまう自分が憎たらしい。そうやってエスコートされて馬車に乗り込む。ふかふかの座面は、雲上人が乗る馬車にふさわしく、自分が場違いであると思い知らせてくるように快適だった。それが、最悪の気分を助長させていた。