最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜

第2話 准将権限

 軍属の再就職先は警備職が多い。

 これは当然の話で、軍で培った技能がそのまま活かせるからだった。退役軍人に対して積極的に門戸を開いている業種となれば、なおさら選択肢が狭まる。警備会社、用心棒、門番。要するに暴力の使い方を知っている人間が合法的に暴力を振るえる場所。それが元軍人の行きつく先である。

 エミリーも例外ではなく、新聞の求人欄を毎日、目を皿にして凝視していた。女学院の警備を優先的に探していたのだが、やはり同じことを考える女性がいるもので、王都ローゼン近辺ではほとんど埋まっている。他には港の倉庫警備、銀行の夜警、陸路を往く隊商の護衛など。

 どれも日銭を稼ぐだけなら事足りるが、永続的な就職先でないことは確かだったし、何より、「男性優遇」と書かれているものが大半。女と見ただけで門前払いを食らうのが目に見えている。射撃の腕なら誰にも劣らないはずだったが、それよりも前に性別という弾丸で打ち抜いてくるものらしい。

 そんな求人欄を日がな睨みつけていたはずだが、今は王都中央区のガス灯の明かりを睨みつけている。公爵家の御用馬車に乗り、ふかふかの座面に座って、隣には公爵本人がいる。明るい牢獄だ。

 馬車は灰白色の石畳で綺麗に舗装された大通りを滑るように走る。アンシャル砦に向かう道の無舗装の砂利道をなぜか思い出してしまう。雨が降るとよく泥のぬかるみに荷車が大きな(わだち)を作ったものだ。が、王都の街並みは辺境アンシャルとも普段住んでいる下町とも、まったく別の国のようだった。ショーウィンドウには流行りのドレスが飾られ、犬を二匹も連れて散歩する貴婦人までいた。

「これは、どこに連れていくつもりですか」

 エミリーが車窓の景色をぼんやり眺めながら尋ねると、カイはこちらを見たのかどうか、その返事の声だけが耳に届いた。

「飯と言った」

「飯……ね」
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