最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜

第3話 職業斡旋

 メインディッシュの仔羊のローストを食べ終えた。白い磁器皿が下げられて、代わりにやってきたのはデザートの洋梨のワインコンポート。

 赤ワインで煮含められた洋梨は紅玉色に染まり、なぜかそれは、戦線の野営から何度も見た、地平線に溶けていく夕陽によく似ていた。さながら、添えられたクレームシャンティは夕空にたなびく雲のようで。

 あれは、毎日の生存確認のようなもの。同時に夜襲の時間を知らせる時報でもあった。だから、この洋梨は、エミリーが今まで生き延びたことを確かに知らせていた。

 デザート用の小さな銀匙で一口掬うと果肉がとろりと崩れた。舌の上に乗せる。上品で……甘い。

 味は何に一番似ているかと問われれば、自分の貧相な食事では喩えが上手く思い当たらなかったが、それでも、隊員の誰かが誕生日のときに振舞われた果物の缶詰によく似ていると答えるだろう。

 人生何もかも、缶詰ばかりだ。そこに確かな絶望を覚える。あの果物の缶詰には、この洋梨コンポートのようにワインの芳醇で上品な香りなど付いていなかった。

 黙々と銀匙を運び続ける。カイはといえば、自分のコンポートを早々に食べ終え、やはりエミリーの一挙一動をじっと観察しているようだった。ウィスキー入り紅茶はここでは高級磁器のティーポットとウィスキーのピッチャーに分けて入れられ出てくるものらしいが、とにかく、彼はそれを自分の好きなように注いで、音もなく啜りながら、エミリーが食べ終えるのをじっと待っていた。
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