最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
 カイが話しかけてきたのはエミリーが最後の一口を運び終えて、ガラスの器を載せたソーサーにデザートスプーンを置いたときだった。かちり、と金属が磁器に触れる音が小さく鳴り、それが話の始まりを告げるようだった。

「エミリー、本題に入る」

「なんでしょう」

 まあ、予測はついている。それを口に出して言われるか言われないかの違いだった。彼はもう一度ウィスキー入り紅茶のカップに唇をつけた。そして離したとき、もう一言。

「俺には後継ぎが必要だ」

 やっぱり。エミリーにはお見通しだった。子作り。セックス。交尾。まぐわい。夜伽。単語を変えただけで、意味は同じだ。

「はあ。それで?」

 すげもなく返すと、彼はこう口を継ぐ。

「アーベントロート公爵家には嫡流が俺しかいない。先の大戦後、父が戦傷の療養のために俺が当主を継いだ。俺には兄弟がいない。それで、この半年間は見合いをしていた。顔を合わせた御令嬢は十を超える。政略結婚だとはなから諦めて、公爵家存続のために心を殺していた」

「直訳すれば、『元セフレのエミリー・ガルデニエ元少尉以外に勃たないから後継ぎが欲しい』、ですね? ……分家の方に公爵家をさっさとおとなしく引き渡せばよいのでは?」

 もしも給仕が聞いていたら、卒倒しそうな会話だ。

「やはり君は賢いな。俺が何を語らずにいるまでお見通しか」

「下賤な私が、ただこの時間を、食事を下品に貪るためだけに過ごしていたとお思いで? 座学のテストよろしく予想対策を練る暇くらいありましたよ。ワインコンポートを食べている時間の中だけでも……ね」

「そうか、やられたな」

 彼は苦笑を浮かべて、ワイルドストロベリー柄のティーカップを手にしたまま、かぶりを振った。

「さて、本題とやらを伺いましょうか」
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