最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜

第4話 閑話休題

 煙草はやらなかった。万が一、肺を傷めて走れずに死んだら莫迦莫迦しい。

 王国第一王子キリアン・ローゼンシュタットなどという名前はとうに棺桶の中へと捨てて埋葬されたはずだった。

 母は側室だった。王宮の洗濯係。端女だ。下女だ。召使だ。身分の低い女を父が見初めた。それだけの話だったが、本当にそれだけの話とは通らなくなった。

 三回も「偶然」が起こった。

 一度目は八歳のとき、単純に毒を盛られた。晩餐のスープに致死毒が混ぜられていた。一口目に味の違いに気づけたのは僥倖だった。不味くてすぐに吐き出したのを、母が察して、皿をはたき落とした。なんと、侍女がガラスのような瞳で俺をじっと見ていたというのだ。母は聡明な人で、王宮の人間が自分の息子をどう見ているか、正確に理解していた。

 二度目は九歳のとき、階段から落下した。誰かに突き落とされたのには間違いなかった。右肩を脱臼した。肩をはめるときは、あまりの激痛に額に脂汗が浮いたのをよく覚えている。母は医務室の隅で泣いていた。肩をはめてくれた医務官は、どういうわけか王宮をクビになり閑職に左遷されてしまったらしい。医務官が生きていることだけが幸いだった。

 三度目の十一歳のときは、やたら手が込んでいた。馬車が橋の上で横転し、川に投げ出された。冬の冷たい川を必死に泳いでなんとか岸まで自力で辿り着いた。おそらく、馬の首に銃弾が掠め、暴れ出したのだという。それを教えてくれた護衛官は、翌日、路地裏で刺殺体として見つかった。なんともひどい話だった。
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