最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
哀れなキリアン王子を殺したがっていたのは正室派であり、それは公然のこととなっていたから誰も止めはしなかった。父は早々にキリアン王子を見捨てていた。側室を孕ませたことの負い目を感じてしまったのだろう。「偶然」を黙認するようになっていた。
というのも、キリアン王子には五歳下の弟、第二王子がいた。もちろん正室の子だ。親が子の権利を守るというのは古今東西ありふれたことで。正室だって、一人の母親だったのだ。自分の子、第二王子の命を守りたかったからで。
一方、キリアン王子の母、側室は、息子が毒で死んだと偽装した。キリアン王子は棺の中に入れられたまま墓地に葬ると見せかけて、棺を王宮の外に運び出し、そこから逃亡した。
母は王宮に残った。残って喪に服すふりをせねば、王子が死んだ信憑性がなくなってしまう。棺に入る前、母はキリアン王子の手を握った。あたたかい手だった。そして、棺が閉じられた。母を見たのは、それが最後。
母は「王国三公」の一つ、アーベントロート公爵家に養子として引き取ってもらう手筈を整えていた。当時の公爵、つまり、現在の先代当主には子がいなかった。昔、母はアーベントロート公爵家のメイドとして働いていた経験があったそうだ。その繋がりだった。
アーベントロート公爵家に養子となった日のことはよく覚えている。
「キリアン第一王子殿下は亡くなられた。今日から『お前』は俺の息子、カイ・アーベントロートだ」
「はい」
「返事は『はい、父上』だ」
「はい、父上」
養父は厳格こそすれ、残酷ではないのだった。剣術。馬術。学問。礼法。公爵家嫡男にふさわしい教育を惜しみなく施した。殴られたことはただの一度もなく、だが、褒められたこともほぼなかった。
ようやく褒められたのは、十五のとき、槍で父に二本中一本取れるようになった頃だった。
「お前、ついにやるようになったじゃないか」
一言だけが、なぜか沁みた。
というのも、キリアン王子には五歳下の弟、第二王子がいた。もちろん正室の子だ。親が子の権利を守るというのは古今東西ありふれたことで。正室だって、一人の母親だったのだ。自分の子、第二王子の命を守りたかったからで。
一方、キリアン王子の母、側室は、息子が毒で死んだと偽装した。キリアン王子は棺の中に入れられたまま墓地に葬ると見せかけて、棺を王宮の外に運び出し、そこから逃亡した。
母は王宮に残った。残って喪に服すふりをせねば、王子が死んだ信憑性がなくなってしまう。棺に入る前、母はキリアン王子の手を握った。あたたかい手だった。そして、棺が閉じられた。母を見たのは、それが最後。
母は「王国三公」の一つ、アーベントロート公爵家に養子として引き取ってもらう手筈を整えていた。当時の公爵、つまり、現在の先代当主には子がいなかった。昔、母はアーベントロート公爵家のメイドとして働いていた経験があったそうだ。その繋がりだった。
アーベントロート公爵家に養子となった日のことはよく覚えている。
「キリアン第一王子殿下は亡くなられた。今日から『お前』は俺の息子、カイ・アーベントロートだ」
「はい」
「返事は『はい、父上』だ」
「はい、父上」
養父は厳格こそすれ、残酷ではないのだった。剣術。馬術。学問。礼法。公爵家嫡男にふさわしい教育を惜しみなく施した。殴られたことはただの一度もなく、だが、褒められたこともほぼなかった。
ようやく褒められたのは、十五のとき、槍で父に二本中一本取れるようになった頃だった。
「お前、ついにやるようになったじゃないか」
一言だけが、なぜか沁みた。