最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
 軍の幼年学校には入らなかった。公爵家がつけた家庭教師団による教育のみで、士官学校への編入資格を得た。十五で士官学校に入り、十八で首席卒業、士官任官。最年少の大尉として前線に配属された。

 それが偶然でないことくらい、とうにわかっていた。

 王妃の一派は第一王子がまだ生きていることに気づいている。あるいは、確信はなくとも、疑っている。アーベントロート公爵家の養子が、死んだはずの第一王子に似すぎている。年齢もぴたりと合う。

 戦場で死んでくれれば都合がよい。最も危険な前線に繰り返し送り込めばよい。配置命令の裏に誰の意思があるか、養父は掴んでいたが、あえて抗わなかった。

 辺境アンシャル砦。第五遊撃連隊〈白鳥(シュヴァーン)〉。最前線の中の最前線。死亡率が突出して高い部隊。兵の損耗が激しく、入れ替わりが早すぎると定評があった。

 自分が死ぬ代わり、敵を殺した。何人か、わからなくなるまで。

 何人かわからなくなって久しくなった頃、そして、先代の連隊長が引退した頃。その頃には大佐に昇進していた。そして次の連隊長を任された。

──酒。

 嫌いではなかったし、むしろ好んだ。が、酔えば判断が鈍ってしまう。いざというとき指揮官が酔っているわけにはいかず。ウィスキーは紅茶に混ぜて薄めた。酩酊しない程度にはしていた。たまに、「紅茶をウィスキーで薄めた」のはご愛嬌である。

──賭博。

 まったく興味がなかった。確率に運命を預ける趣味はない。前線では毎日が賭博だ。ただでさえ命という最大の賭け金で戦っているのに、これ以上があってたまるか、という話。

──女。

 幼年学校卒の新任エミリー・ガルデニエ少尉が配属されてきたのは、連隊長になって二年目の秋のことだった。初めて関係を持ったのは、その二年後。大佐から准将に昇進していたし、彼女は十八歳になっていた。その年の凍てつくような冬の日だった。

 すなわち、セックスの後にやる酒は格別だった。

 やっぱり俺は、彼女が可愛いんだ。ま、彼女に死んでほしくないから、言えないけどね。
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