最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
 というわけで、この男はそんなエミリーの雑な辞退もむなしく、まったく聞き入れる様子がなかった。そのまま御用馬車に連行され、出荷される仔牛のごとく公爵邸へ連れてこられたのだ。もちろんそんな莫迦げたやり取りの前にきちんとした説得があった。

「王城勤務があるまで一ヶ月はある。その間、衣食住を君が自己管理できるとでも?」

「それは……確かに……無理ですね」

 自分の発言がまったくもって慚愧にたえない。

「このままでは一ヶ月を待たずして飢え死ぬ方が先だ。そんな状況を俺が見過ごせるわけなかろう! 異論が認められることと、それが受理されることとは、まったくの別物だ!」

「っ……」

 独裁政治もかくやの暴論は、彼の口から発せられれば、ひとしきりの説得力があり、エミリーは渋々従うしかなかった。とはいえ、反論の余地がないのもまた事実ではあった。

 手持ちの現金はほぼなし。クラウスじいさんの遺産に手をつけるのはご法度。アパートの家賃は来月分がいよいよ怪しい。兵糧は乾パンの缶が残り二つ。

 彼の提案を足蹴にしてみたところで、待っているのは空腹から生涯抜け出せず共同墓地に葬られるか、娼婦になって花街から生涯抜け出せず共同墓地に葬られるかの、たいへん香ばしくない二択だった。

 だから、ここにいる。このアーベントロート公爵家の食客として。愛玩動物のように。

 不本意だ。どれくらい不本意かというと、不本意そのものが人生ではないかと悟りを開けたほどには不本意だった。人生の有為転変は、ままならないものだ。

 苛立たしくなって、手隙だったのでクローゼットをがららと開けてみる。真新しいランジェリーが、ずらり。

「サイズは目分量だ。見た。触れた。吸った。長い付き合いだからな。おそらくは、正確なはずだが?」

 吸った、は余計な一言だろうと内心そこはかとなく憤りを憶えつつ、下着を手に取ってみる。溶けるように柔らかい生地。そして、肝心のサイズは狂いなく正確だった。

「──!!」

 絶叫しそうになった。
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