最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜

第6話 例外的措置

 薔薇の浮かべられた湯船に浸かり、下ごしらえされる野菜めいて侍女に身体を洗われる。恥ずかしかったが、あの男に手ずからされるよりはよかった。

 勿忘草色(フォゲットミーノット)のイブニングドレスに身を包んで晩餐をいただく。
 
 公爵邸の晩餐は昼食のレストランにまったく引けを取らないどころか、むしろ、公爵邸の専属シェフが腕を振るっているのだから、その点では、こちらの方が格上かもしれない。

 前菜、真鯛のカルパッチョと山鳩のスモーク。
 スープ、コンソメ・ロワイヤル。
 魚料理、フィレ・ド・ペルシュ。
 肉料理、鹿ほほ肉のアン・クルート。
 デザート、根セロリとマンゴーのムース。

 どれもこれも、エミリーにとっては何かの呪文のような料理名ばかりだし、エミリーの貧困な食生活からすればまったく異次元の産物であり、味覚の特異点と言って差し支えなかった。エミリーの矜持と食欲の摩擦係数は、ますます高まるばかり。

 胃袋が今までの人生の鬱憤鬱屈を晴らさんがごとく一皿残さず平らげてしまったのは、ひとえに身体の生理的欲求と猫をも殺すような好奇心に盲従的にあったままの結果であり、エミリーの本意ではない。……決して。

 晩餐の席で、カイは終始、気持ち悪いほどにこにこすることに徹していた。そして、執事も、侍女も、料理を運ぶ給仕たちも。皆が、にこにこしている。

 エミリーは見世物ではない。見世物にして楽しいか。そう文句の一つや二つを言いたくもなるのだが、空の皿が下げられていくたびに、次の皿が運ばれてくるたびに、この屋敷の人間たちは、さりとて、あたたかい目をしていた。

 きっと、同情だろう。歓迎では、ないはずだった。でなければ、理屈が通らない。どこの馬の骨とも知れない孤児の女を主人の愛人として受け入れろと言われたら、自分だったら反吐のような強い拒絶反応を起こすはずだった。せいぜい食客に失礼な態度を取るな、とその主人が強く言って聞かせてはいるのだろうけれど。訳がてんでわからなかった。
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